ロリババア
「上半身は終わりじゃ」
のじゃーさんが離れる。
「起き上がってみい。具合はどうじゃ?」
「なんか体の芯が火照るんだけど」
具体的にはへその裏というか、背骨の付け根というか。
じんじんとあったかくなっている。
「血流が良くなった証拠じゃ。上体はどうじゃ? 首と肩を回してみい」
言われた通りに回す。
「おお!
なんて軽い!
のじゃーさんは勝ち誇る様に両手を腰に置きながら胸を反らしていた。
「伊達にゴッドハンドのじゃーと呼ばれとらんわ」
「誰がそんな呼び方するんだよ」
「各界のプロスポーツ選手。わしの腕目当てでおにすきに通いつめる者もいるんじゃぞ」
本当に呼ばれてるのかよ。
「まあ、のじゃーさんってかわいいしな」
こんな外見おひいさまがこれだけのマッサージをしてくれるとなれば、ゴッドハンドの異名も客が通い詰めるのも不思議な話でもない。
「……こ、これでもガラスの肘と呼ばれた投手を何人も立ち直らせとるんじゃぞ」
「変に顔を赤らめるんじゃない!」
しかも話が急にうさんくさくなった。
「いくつになってもオンナはかわいいと言われれば嬉しいものじゃ。次は腰をやるから横を向いて寝転がれ」
言われた通りの態勢をとる。
のじゃーさんは向かい合う様に立ち、俺の腰に手を当ててゆっくりと揺らしてくる。
「こういうのって背中側に立つものじゃないの?」
「雨木の顔を見ながら話したいからなんじゃが……ダメか?」
のじゃーさんがニヤリとする。
さっきのかわいいの意趣返しのつもりか。
照れさせられたのが悔しいには悔しかったのだろう。
なんとまあ、年齢の割にやることがかわいらしい。
「勝手にしろ」
「そうしよう……腰も固いのう」
「毎年冷え込んでくると腰痛が出るんだ」
「背筋を鍛えい。このままだと、いつギックリ腰になってもおかしくないぞ」
「そんな年齢じゃねえ!」
「若くてもなる、わしでもなったことあるのに」
そりゃ五三歳ならなるだろう。
見かけは幼くても、やっぱり肉体年齢は相応なのかな?
「しかし雨木よ」
「ん?」
「ジョージからは『アマギは女性が苦手なヘタレだから教育してやってくれ』と頼まれとったんじゃが……それにしてはよく喋るの」
あの野郎……。
「のじゃーさん相手にオンナを意識するもないだろう」
「随分じゃのう。わしはまだそこまで枯れてないぞ」
幼女も熟女もオンナに入らんわ。
女子高生を境にドギマギしてしまうから、恐らくその辺りが俺にとってのオンナの下限なのだろう。
別に女子高生を恋愛対象としてみるわけではないけど。
「のじゃーさんが話しやすいからだよ」
さすがに思ったままを返せないし、これくらいで適当に返しておけばいいだろう。
「そう言ってもらえると嬉しいのう……」
のじゃーさんの返事はしんみりとした口調。
表情は微笑、というか顔が緩むのを必死に堪えている感じ。
しまったな……こんな素直に喜ばれると罪悪感を抱いてしまう。
申し訳ないと思いつつ話題を変える。
「ジョージこそ俺の教育の前に自分の病気治せよ」
「仕方ないじゃろう、あれはトラウマなんじゃから」
へっ?
「それって逆レイプがどうとかって話?」
「なんじゃ知っとるのか」
「いや、あいつは最後に冗談と言ってたぞ」
「ちょっと話してみ? わしは本当の事を知っとるからペラペラ話せんでの」
こっちは冗談と言われたわけだし、話しても構わないだろう。
聞いた話をそのまま教える。
「なるほど、確かに嘘じゃの」
「びっくりさせんなよ」
「トラウマに陥ったのは研究員のせいじゃからの」
「はあ?」
のじゃーさんは俺の腰を揺らし続ける。
「ジョージはギフテッドの可能性があるということでの、一三歳でCIA傘下のギフテッド研究所におったんじゃ。そこで同じ年齢のギフテッド女子と無理矢理くっつけられた」
「ちょっと待て」
「悪かったのはその女の子担当の研究員が色々と要らぬことを教え込んどったんじゃ。ギフテッドは一旦興味を抱くととことんまでやり尽くすから、女の子と研究員はジョージに欲望の限りを尽くした」
「ちょっと待て」
「しかし、ジョージは結局ギフテッドじゃないことが判明して研究所を追い出された。代わりに性玩具としての生活からは抜け出せたがトラウマは残った」
「ちょっと待て」
「さらには口を封じるためCIAに無理矢理就職させられたわけじゃ。むしろよくここまで立ち直った、わしはそう褒めてやりたいよ」
「あいつにそんなことが……」
「まあ、過去のことじゃしの。当たらずとも遠からずなことを話したということは、ジョージも雨木を同好の士として認めたんじゃろ」
「俺はロリじゃねえ!」
「さっきからわしの太腿を食い入る様に見とるじゃないか」
えっ!?
しまった……無意識の内につい見とれてしまっていた……。
だって仕方ない。
まったくムダのない、それでいながらうっすらと脂肪のついた脚。
まるで火山の噴火する直前がごとくのエネルギーを秘めた、躍動感と疾走感に満ちあふれるパツンパツンの肌。
さらにスパッツで強調された、太腿の間に広がる神秘的な逆デルタ。
男ならロリであろうとなかろうと目が行くだろう。
否、これを否定するヤツは男ではない。
いや、だめだだめだ。
健全な男子かつ一公務員として、日中からこんな不埒な妄想を抱いてはだめだ。
これじゃのじゃーさんの言うとおり、ただの変態野郎じゃないか。
しかも相手は五三歳の、幼女どころか老女に足を踏み入れた女だぞ。
とにかく全否定しなくては。
「ロリの脚にもババアの脚にも興味はない」
「自分を捨てれば楽になれるのに」
全てを見透かした様な物言いがこれまたむかつく。
このロリババアめ。