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おにすき

「CIAとの連絡行ってきます」


「雨木君よろしく」


 内閣情報調査室、略して内調の入った内閣府庁舎を後にする。

 腕時計を確認。


 【2013/11/25 14:30】


 今から会うのはCIAの機関員ジョージ。

 待ち合わせは一五時、このままだと少し遅刻かな?

 しかし遅刻どころか、ジョージは俺が来たことにすら気付かないかもしれない。

 あいつから指定されたのはそういう店だから。 

 ああ、気が重くなってくる。


 ──約束の店についた。


 秋葉原駅から裏通りに入って少し離れた地点。

 たったそれだけなのに、既に隠れ家感とアングラ感が醸し出されている。


 看板には【ようじょきっさ おにいちゃんだいすき】と書いてある。

 平仮名を漢字に直すと「幼女喫茶」。

 巷では略して「おにすき」と呼ばれている。


 もちろん本当に幼女が働いているわけじゃない。

 喫茶と銘打ってはあるものの、実際には幼女をテーマにした総合サービス店だ。


 入口脇には小さく細長い丸テーブル。

 横に注意書きのスタンドが立てられている。


【名札に名前を書いてね。ひらがなでおねがい】


 箱の中には小学生用の名札。

 一つを取り出して【はるみ】と記入する。

 もちろん偽名。

 死んだ妹の名前だが、男の名前でも通用するし。

 こういうのは自分がすぐに反応できる名前をつけるのが基本だ。


 ──扉を開ける。


 鈴の音がカランと鳴る。

 小学校の制服を着たポニーテールの幼女がぴょんと飛び出す様に出迎えてくれた。


「はるみおにいちゃん、おかえり~」


 店員の名札には【りか】と書いてある。


 妹からは「アニキ」と呼ばれていた。

 そんな俺にとって「おにいちゃん」と呼ばれるのは違和感しかない。

 しかも「○○おにいちゃん」という言い方は他の兄の存在を意味する。

 俺は兄一人妹一人の兄妹だっただけに座り悪くて仕方ない。


 それでもこう返すのがお約束。

 腰を思い切り屈め、りかちゃんと目線を合わす。

 そして全力で営業スマイル。


「ただいま、りかちゃん」


「ね、ね、おにいちゃんをおむかえしたりかっていい子?」


 「はるみ」と付けたのは最初だけか。

 きっと名札の確認が目的だったんだ。

 こんな店なのに徹底した店員教育を感じずにいられない。


「うん、いい子だよ」


「じゃあ、じゃあ、なでなでして?」


 せがまれるままに頭を撫でる。


「りかちゃんいい子だね~、えらいね~」


「えへへ~。おにいちゃん、だぁいすき!」


 りかちゃんがあどけなく笑ってみせる。

 その幼い顔や体つきは小学生のそれにしか見えない。

 他の店員も、りかちゃんみたいな「一二歳未満の幼女」ばかりだ。


 しかし、全てが「設定」。

 女の子達の中身はもっともっと年上。

 ロリ基準の一二歳はもちろん、魔法少女基準の一五歳を超えている。

 その手のフェチに言わせれば、いわゆる「BBA(ババア)」だ。


 りかちゃんに尋ねる。


「おにいちゃんのお友達……金髪の外国人は来てないかな?」


「うん、来てる~。あのカッコイイ人っておともだちなんだ~」


「カッコイイ、ね」


 確かに顔は格好いい……顔だけは。

 ワイルドで少々無骨目で精悍で。

 いや、「だけ」でもないか。

 体型も一八〇センチを越える高身長で程よい筋肉質。

 同性としてむかつくくらいにスーツが似合う。

 おまけにCIAとあわせて外交官の肩書まで持っている。

 スペック的には上等の部類と呼んで構わない男子だろう。


 しかしジョージは重度のロリ。

 次世代に子孫を残せない哀れな病の患者だ。

 そうでなければ間違いなく幸せな人生を満喫できるはずなのに。

 羨むどころか、正直憐れむまである。


「スタジオにいるよ~、だけどね」

 スタジオ?

 りかちゃんが前で手を組んでもじもじとする。


「ん?」


「おにいちゃんの方がもっとカッコイイよ~、てへっ」


 ぺろっと舌を出した。


 ああ、俺がやっかんだと思ったか。

 気遣ってくれてありがとう。

 しかしりかちゃんの実年齢を考えると本当に恥ずかしい振る舞いじゃなかろうか。

 むしろこちらが気遣いたくなってしまう。


 りかちゃんは小学校の制服。

 それに見合った軽く弾む様な足取りで歩き始める。


「らんらんらん~」


 元気よく腕を振る様は見ていて気持いいんだけどなあ……って、あれ?

 りかちゃんが出入り口の扉を開け、店外へ出て行く。


「おにいちゃん、こっちだよ~」


「あ、ああ……」


 なぜ店外に?

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