ある戦士の必殺技と戦闘記録
俺の名はガイ、筋骨隆々の戦士だ。勇者パーティーの一員として長い旅を続けている。
だが、旅ももうすぐ終わろうとしている。ここは魔王との決戦前、最後の宿営地。
落ち着いて休めるのも、これで最後なのだが。
「何故全員俺のテントに入ってくるんだ……」
勇者アレク、僧侶ギル、魔法使いのネイも全員が神妙な顔をしている。
最初に口を開いたのはアレクだ。
「ガイ、正直に答えてほしい。君には……戦士には必殺技はないの?」
なるほどな、最終決戦前の戦力の確認か流石は勇者だ。
「いや、無いが。この鋼の肉体から繰り出される通常攻撃は、全てが必殺技というところか」
ふふっ我ながら名台詞だと思う。これぞ戦士の鏡という回答だろう。
「……そう言うのはいいですから、明日までに必殺技を考えておいてくださいよ」
どうしたんだ。ギル!なぜそんな冷たい表情で俺を見るんだ!
「魔王との戦闘記録の最後が通常攻撃だったら、あんた燃やすからね」
ネイまで!何故だ!通常攻撃で倒してはいけないというのか!
「……ガイ。これも僕たちの名声のためなんだよ。戦闘記録は一生残るし、止めが通常攻撃だと誰も語り継がない。僕らの人生もこれから長いし地位は盤石にしたいからね」
「アレク。俺は悲しいぞ、みんな地位とか名誉の為になんて戦っていないだろ?」
「いや、私は功績で大司教になるのが目的なので」
「私も魔法協会長になって千年名前残したいだけだから、じゃなかったらムサイ男どもと旅しないわ」
「……」
「という事でね。ガイ、もし君の順番で倒すなら戦闘記録に残る必殺技で倒してね。防御とかで回すのも無しだよ。手を抜いてるなんて言われかねないから。まぁガイが通常攻撃しかできない能無しだとはみんな思ってないからさ、頑張って!」
テントを去っていく三人。
俺はガイ、今は怒りに燃える戦士だ。編み出してやるよ必殺技。
――
魔王との死闘。天を裂き地を砕く技の、呪文の応酬。だがそれも終わりが近い。
どうやら最後に順番が回ってくるのは俺らしい。全員と視線が合う、みな不安そうである。
「任せておけ!斧を両手に構える!これが必殺両手持ちだ!」
威力は二倍!砕け散る魔王!さぁ戦闘記録を見てみろ!
『ガイは斧を両手に持った。通常攻撃、魔王を倒した』
……あ。
この後もちろん燃やされた。