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特務魔術師の不当解雇~伝説の血統が本当だと気づいてももう遅い~

作者: 山吹弓美

「キャスバート・ランディス。お前の職は、たった今を以て解かれた」


 王城に呼ばれ、宰相閣下と面会した俺は開口一番、そんなことを言われた。


「はあ?」

「分かりにくかったか? お前はクビだと言ったんだ、『元』王国特務魔術師キャスバート・ランディス殿」

「分かりやすく言い直してもらわなくて結構ですよ、宰相閣下」


 どういうことだ、と眉をひそめる。俺の地位は国王陛下が直々に叙任くださったものであり、いくら宰相閣下といえど勝手に俺のクビを飛ばすことはできないはず、なんだが。


「これは国王陛下からも許しを得ている。決定事項故、即刻城を去るが良い」

「マジですか」


 えらく自信満々な顔を……してるのはいつものことか。その宰相閣下が俺を嫌っているのはなんとなく知っていたけどさ、クビにしてくれるとは思わなかったなあ。


「ということは、すでに後任は決まっているわけですか」

「無論だ」

「では、俺は問題ありません……が、任務の引き継ぎは」

「それも必要ない」


 いや、さすがに引き継ぎはしないといけないだろう、と思ったんだが。

 宰相閣下はもう言うことはない、とばかりに俺を手でしっしっと退けた。


「何をしている。無役の者が王城にいつまでもいられると思うな」

「わ、分かりました。それでは、失礼いたします」


 うー、周囲にいる兵士の目も冷たい。まあ、ここにいるのは宰相閣下の手の者だからなあ、仕方ないか。




「そんなわけで、無職になりました」

「は?」


 城を出て、行きつけの居酒屋に入る。いつも応対してくれるウェイターさんとか常連客とかに早いな、と言われたのでありのままぶちまけてみた。


「いや。お前さん、特務魔術師だろ? 何で宰相閣下がクビ言い渡してくるんだ」

「それが、国王陛下のお許しが出てるって」

「マジかー」


 俺に相席を勧めてくれてあとエール一杯おごってくれたのは、近衛騎士団の団長さん。昼間っから酒かっくらってるってことは、今日は非番なのか。いや、休みを取ることも重要だけどな。


「それでも、せめてあたしらに話通してからにしてほしかったわねえ。キャスくんがいないお城なんて、守る気にもならないわあ」

「いやいやいや、そんなことは言わないほうが」

「あら、本音よお?」


 ひどくドスの利いた声で不満を漏らしてくるのは、王都守護魔術師団団長のおネエさん。近衛騎士団団長さんが魔力通信で呼び出して、俺の話を聞いてすっ飛んできたんだよな。あんたは仕事どーした。


「俺の後任がちゃんといるらしいから、王都は守れるんじゃないかな?」

「あら、ランディスブランドの血統、他にもいたのかしら」

「宰相閣下は、ランディスブランドは伝説だと思いこんでおられるからな……」


 ランディスブランド。古い、古い血統の一族である。

 俺の姓、ランディスはその血統を色濃く残した一族……なんだけどまあ、あんまり古いもんだからかなり薄まっててさ。俺の両親はその中でも比較的濃いところがくっついて、生まれた一人っ子の俺にうまく受け継がれた。

 ランディスブランドの務めは、この王都を守ること。王都を取り巻くように結界を発動させるシステムが設置してあって、そいつに魔力を流し込むのが俺の仕事だったわけだ。何でか知らないが、ランディスブランドの魔力でなければ発動しないからな。

 血の濃さによって結界の能力が変わるらしく、俺が発動させるとかなり強力な結界が作れる。実験でおネエさんの配下の魔術師数十人が一斉に魔力ぶつけてみたけど、あっさり無効化してたんだよねえ。


「……キャスバート。今後、どうするつもりだ?」

「田舎に帰ろうと思っています。このままだと宰相閣下に何を言われるか分かったもんじゃありませんから」

「それが良いな」

「そうねえ。キャスくんのお顔、見られなくなるのは残念だけど」


 団長さん、おネエさん、ここでは本当にお世話になったんだよなあ。他にも、お城の人たちのほとんどとは仲良くやっていけたんだけど。

 でも、宰相閣下は俺が近くにいることすら不満だろうしな。

 田舎に帰って、もう誰もいない実家を片付けて、その後は……ま、適当に考えよう。




「そういうわけで、彼は自ら職を辞しました」

「なんと……」


 キャスバート・ランディスを解雇した宰相は、国王にはそう申し立てた。彼の解雇が自身の独断であり、その理由がキャスバートの能力に対する国王の待遇や給与などが不当に良いという自身の判断であることを悟られたくなかったから。


「後任として、彼よりも能力の高い魔術師を着任させましたので陛下に置かれましては、どうぞご安心を」

「その者は、ランディスブランドか?」

「いえ」

「そうか……無理じゃな」

「は?」


 宰相がキャスバートの後釜に据えようと探し出してきた魔術師は、この王国とその周辺でも抜きん出た能力を持つ者であった。ランディスブランドなどという、古臭い伝説に守られた血統などではないが、その能力故に後任として何の問題もないと考えていた。

 宰相だけが。


「……そうか、自分で出ていってしもうたか」

「あの、陛下」

「わしは、この国を終わらせる愚王となる準備をせねばならん。これから忙しくなる故、そなたらも覚悟せよ」


 ランディスブランドの血統でなければ、王都を守る結界は作れない。

 ランディスブランドが外れたことを周辺国が知れば、温暖で裕福なこの国を手にしようと攻め込んでくることを、国王は知っている。

 国防の要であるキャスバートがいなくなったことで、国は程なく滅びるであろう。


 宰相がキャスバートの探索を命じる頃にはすでに、彼は自身の故郷である小さな国に戻っているだろう。そこには宰相の横暴とそれを許してしまった王の迂闊さを見限った者たちが集結しており、王国に代わる新たな存在となり始めている。

 それを知ったとき、宰相は頭を抱え、己の愚かさを知ることになる。

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