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3Dプリンターの怪

 ある日、奇妙なメールが送信されて来た。

 「3Dプリンターで製造して欲しい部品がある」

 正体不明。だが、謝礼は製造費の他、1万円払うという。

 私の家には3Dプリンターがあった。どうしてこのメールの送信主がそれを知っているのかは不可解だが、買った当初は嬉しくて、色々な場所で書き込んでいたから、或いはその一つを見たのかもしれない。

 少し迷ったが、私はその依頼を受けてみることにした。怪しいと思わなかった訳ではないのだが、だからこそ私は好奇心を刺激されてしまったのだ。一体、どんな部品が出来上がるのか。

 それに、もう随分と長い間、3Dプリンターを使っていなかったから、久しぶりに使ってみたくなったということもあった。

 送られて来たデータで製造してみると、それはヘルメットのような形状の部品だった。取り立てて面白くもない。それにこの程度だったら、3Dプリンターなど使わなくても造れるような気がしないでもない。

 私は拍子抜けしてしまった。

 何にせよ、私は出来上がったその部品を指定された住所に送った。支払いは遅くなるという事だったが、まぁ、そもそも支払ってくれるとも思っていなかったので特に気にしなかった。

 その数日後、SNSにコメントがあった。この件を私は書き込んでいたのだが、それに対するコメントだ。

 コメントの内容を信じるのなら、その人物の所にも似たような依頼があったらしい。と言っても、彼(彼女かもしれないが)は、部品の製造を依頼された訳ではなく、送られて来た部品を組み立てる仕事を依頼されたのだという。

 

 「あなたは、ヘルメットのような部品を造ったそうですが、僕は腕を組み立てましたよ。ロボットの腕だと思いますが、部品はそれぞれバラバラに送られて来ました。

 実はその内の何人かと連絡を取ってみたのですが、やはりあなたのように正体不明の何者かから依頼を受けたようです」

 

 彼によれば、彼は出来上がった腕のような部品を指定された住所に送ったらしい。

 部品の送った先の住所に住む人物が、仕事を依頼して来た本人だとばかり私は思っていたのだが、そのコメントが正しいのなら、その住所の人物も単に依頼を受けた組み立て担当の可能性がある。

 どうやら、目的はさっぱり分からないが、何者かが様々な人に依頼をして、ロボットを製造しようとしているらしい。

 その後、しばらくは何事もなかったが、ある日、ネットのニュース番組を観ていて、私は驚いてしまった。

 「――あの頭は、私が製造した部品の形にとてもよく似ている」

 自分が造った部品が、そこに映っていたからだ。

 ただし、それは現実の映像ではない。AI自身が創造した架空のAIの姿だ。そこにはAIの研究員だという30代くらいの男の姿もあった。

 「“彼”はネットに飛び交う情報を集め、自己組織化現象を応用して誕生した、電脳ワールドの新生命とも呼ぶべきで存在です。

 頭脳の基礎は、スーパーコンピューターですが、自ら考え、自ら行動できる。知能と一言で言っても様々な種類がありますが、控えめに言って、彼が通常の人間よりも遥かに優れた知能を持っている事は明らかです」

 研究員は自信満々の口調でそう語る。インタビュアはそれを聞くとやや大袈裟な様子で驚いた顔を浮かべるとこう尋ねる。

 「まさにSFですね。

 彼とはコミュニケーションが可能なのですか?」

 研究員は大きく頷いた。

 「ええ。それどころか、彼は自分がいる場所が電脳空間で、外の世界には我々がいる事を分かってもいますよ。

 色々な人と話したがっている。

 或いは、外に出たがっているかもしれませんが、それは私達が許さない。彼が現実世界でも安全な存在という保障はどこにもありませんからね」

 その説明に頷くと、インタビュアはこんな疑問を口にした。

 「あなたの話を聞いて、少し不安を覚えました。ずっと前にどっかの本で読んだのですが、人間がどれだけAIを電脳世界に閉じ込めていられると思っても、人間よりも遥かに優れた知能を持つAIは、そこから逃げ出す手段を見つけてしまうって。

 本当にそのAIを閉じ込め続けるなんて事が可能なのですか?」

 研究員はその質問に笑った。

 「出るって言っても、一体、どうすればそんな事が可能なんです? “彼”には実体がないのですよ?

 まぁ、どっかの誰かが彼の為のボディを製造してくれるというのなら話は別ですがね。そんな人間はいませんよ、絶対に」

 

 その言葉に、私が固まったのは言うまでもないだろう。

 もしかしたら、私が製造したのは、彼の部品の一部かもしれないのだ。そして、数々の人間達は、そうして知らない内に彼のボディを製造させられていたのかもしれない。

 

 彼がもし本当に危険な存在だったなら……

 

 不安を覚えたその刹那、ニュース番組の中で、架空の姿のAIの彼が、私に向って軽くウインクしたような気がした。

 もちろん、気の所為なのだろうが。

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