Welcome to Upperground
☆キャラ紹介☆
守倉朱音 地底人。日課はレスバ。
伊達七海 地上人。日課は散歩。
1.敗因:晴れ
私、守倉朱音はどこにでもいる普通の高校生。
今日も元気に地上人との異文化交流に勤しんでいます。
『43.名無しのうんちゃらかんちゃら
>>6
顔真っ赤www』
『44.名無しのうんちゃらかんちゃら
>>43
うっせー他に言うことないなら黙ってROMってろ殺すぞ』
カスが論点ズラしクソ煽りをかましてきたので指摘ついでに煽り返してやりました。しかしこの程度でくたばるはずもない、私がしっかり引導を渡してやる。
「あれ?何回F5してもレスが増えない。一体どうして」
なんだかネットの調子が良くないみたいです。おかしいな?と思ってモニターの右下を見ると、通信が未接続状態なのがわかりました。
「は?」
PCがダメでもソシャゲ用ハードなら繋がるのでは?確認してみよっと。
(圏外)
地下は基本的に電波が悪く、うちレベルの過疎地になるとキャリアの電波はほぼ入らないのを忘れていました。これはまずい。
「おかーさーん〜」
「あれ?喉の調子が……んっ…んっ……」
声を思い切り張って呼んだつもりでしたが普段あまり喋る日がないのでちょっと声がうまく出ませんでした。
でももう大丈夫、さあ気を取り直して大きな声で
「おか〜〜ぁあ〜〜さあ〜〜〜ん!!!!!」
「何よあんたうっさいわね……いっつも私が呼んでも全然来ないくせに」
多分気のせいでしょう。
「ネット切れてんだけど」
「だけど。じゃないよ。うちの回線今日までで切れるって前から言ってたじゃない」
初耳なんだが?
「えー、いつよそれ」
「昨日とか。全部で10回くらい言ったけど」
「はぁ~?聞いてね~~~~」
「あんたが悪いんじゃないの。とにかくもううちじゃ繋がらないからネット繋ぎたいならネカフェ行きなさい」
日課のレスバ程度でわざわざネカフェに?流石にそれはちょっと……
「えーじゃあもうあたし上行く」
「あんた本気?地上は危ないよ」
「大丈夫だよ、最近は色々あるし」
ネットで見た色々がきっと私を救ってくれることだろう。
「色々って?」
「うーん……色々」
「まあいいなら別にいいんだけど……」
そして翌日。
「よし、準備おっけ」
今日から地上で生活です。地上人社会の中で暮らすと思うとガン萎えしますがこれもネットのため。背に腹は替えられません。
私は今、勇気を持って地上へと足を踏み出し――
「アッッッッッッッッッッッツ」
「むり……ひぬ……しんでしまう……」
想像を絶する暑さに完敗していました。
地上人、よくこんなとこで生活できてんな……
2.言ってみたかった/言わなきゃいけなかった
あまりの暑さにブッ倒れた後、目を覚ますとそこには知らない天井が見えた。いや、天井以外も全部知らないけど。
「ここはどこ……?私は誰……?」
ついド定番の台詞を口にしてしまう。これ1回言ってみたかったんだよな〜
独り言のつもりで言った台詞だったが誰かに聞かれていることに気がついた。状況から察するに炎天下で焼肉さながらに寝そべっていた私を助けてくれた恩人だろう。この人何か深刻そうな顔をしているが大丈夫だろうか。
「えっあなた記憶喪失なの!?こういうときってどうしたらいいのかしらとりあえず警察……ああでも記憶以外にも何か異常が……」
ヤベえ、この人めちゃくちゃ慌ててる。私の妄言を真に受けてしまったのだろう。なんか申し訳なくなってきたな。
仕方ない。ここは自分の非を認めて素直に白状しよう。私はやれば出来る子、良識の擬人化と言っても過言ではないほどの善人だ。
「あの」
「はい?」
「あの……記憶は大丈夫なので……」
言ってみたかったからと勢いで妙なことを口走ったのを悔やむ。恥ずかしい。
「そ、そう……それはよかった」
おっとり系かな?と思って見ていた顔面が歪んでいく。眉間に皺を寄せ、声を震わせる彼女の姿は、誰がどう見てもキレているとしか思えなかった。
「いやほんとごめんなさい!!!」
3.Welcome to Upperground
「で、あんたなんでこんなクソ暑い中倒れてたの?熱中症?」
事情聴取を受けている。まあ外で倒れてたので気になりもするだろう。
「ネッチュウショー?」
急に目線が胡乱になった。もしや虚言扱いされているのか。
「いやいやいや、流石に熱中症くらい知ってるわよね?嘘でしょ?」
一心不乱に首をブンブン横に振る。ちょっと目が回ってきたかもしれない。
「……あんたそれ気持ち悪いからやめたほうがいいわよ」
「……」
せっかく身体を張ったのに不評で悲しい。
「キモい首振りは置いといて、結局あんたどういう経緯で倒れてたのよ」
かくかくしかじか。
「――そんな感じで、Welcome to Uppergroundってわけですね」
「なんか英語変じゃない?」
「これはそういうのなんですー!ちゃんと流して!」
ネットスラングは知らない子に素で間違えてる扱いされるのが一番辛いのだ。
「また逸れた。それより、地上に出てきたってことはつまりあんた地底人なの!?本物?初めて見たかも!」
「ツノも尻尾も本物だけど。ほら」
調子に乗って尻尾をブンブン振ってしまったがこれ明日の筋肉痛がヤバいんじゃ……
「すごーい!ビームとか出ないの?」
めちゃくちゃ目をキラキラさせて見つめてきているが、どう考えても出ない。
「はぁ?ンなもん出るわけねーだろ」
「あ゛?」
怖い怖い。声にドスを効かせすぎじゃなかろうか。
「間違えた。何か変な漫画でも読んだんですか?」
「読んでないわよ。でもなんかほら、あるじゃない?地底人といえばビームみたいな」
「あるじゃない?じゃないでしょ。どう考えてもビームは出ないよ」
「ところであんた名前は?聞いてなかったわよね?」
こいつ私の話聞いてんのか?
「も、守倉朱音」
「そう。私は伊達七海」
七海……ナナミンだな。
「ときにナナミン」
「あんた馴れ馴れしいわね」
「ナナミンは一人暮らし?」
「まあ、そうね。それがどうしたってのよ」
さっきから思ってたけどこの子ツンデレみたいな喋り方するな。私を助けてくれたという優しい一面もあるしチョロいかもしれない。
「いや〜そのですね……実はあたし、行くアテがないっていうかぁ〜」
「は?」
怖い怖い。両目をしいたけみたいにキラキラさせていた時とは打って変わってゴミを見るような侮蔑たっぷりの視線をこちらに向けてくる。同一人物とは思えないほど落差が激しい。
「居候とか募集してないですか……?」
「募集はしてn」「あああああごめんなさいごめんなさい居候の募集とか意味分かんないですよね「ねぇ」してないですよねごめんなさい「ねぇ」ごめんなさい許し」
「ねぇってば」
「?」
「ちゃんと最後まで聞きなさいよ、せっかち過ぎでしょ」
「はぁ」
「別に募集とかはしてないけど……いいわよ」
「おおお!マジっすか!」
やはり私の見立てに間違いはなかった。ナナミンは紛うことなきツンデレであった。
「正直者かなりダメだと思ってたんでめちゃくちゃ嬉しいっす!ナナミンありがとう大好き」
「流石に大袈裟過ぎじゃない?それで家賃の話なんだけど」
「?今なんと」
「家賃よ家賃」
「あぁ、そりゃそうだよね……」
「ちょっとなんで露骨に残念そうな顔すんのよ。そりゃ取るわよちょっとくらい」
「いや、当たり前だからかな……自分の楽観に絶望したというか……」
地上に出るなら当然住居にも金がかかるだろうとは思っていた。思っていたはずなんだが、何故か途中から認識がバグって「無課金住宅ゲット!」みたいな気持ちになってしまっていた。なんでだろうなぁ。
「そう……まああんまりぼったくる気はないわよ。これくらいでどう?」
スマホで金額を計算していたみたいだ。額は……ちょっと高く感じるがこれは多分私の金銭感覚の問題だろう。相場とかはあまり詳しくないが相対的に見ればかなり安いように思える。まあこれなら払えそうだしいいんじゃないだろうか?
「ん、大丈夫そう。それでお願いします」
「うん、よろしくね。ところで」
「なんです?」
「あんた何歳?学校とかどうすんのよ」
「16歳。学校はね、どうすると思う?」
「勿体ぶってないでとっとと話しなさいよ。どうすんの」
どうするんだろうね?
「わかんない」
「は?」
ナナミンは、まるで宇宙に放り出された猫のような顔をしていた。