81 意思霊
近寄りがたい雰囲気を持った、綺麗な少女である。
こちらが気がついたことが分かると、ヒラリと衣を翻して砕石場の方へ駆け出した。蘭が斬撃で撃つ、少女の身体がビクン、ビクンっと斬撃が当たるたびに、大きく痙攣する。
「にくい…神」
少女は立ち止まって振り返ると、こちらを見て赤色に光る目でそう呟くと、また翻って駆けはじめた。
「逃がすかぁ~」
蘭が後を追う。
「待て! 蘭、罠の匂いがする」
俺は、少女を追う蘭の後を追う。
窪地への細まった場所に来たときだった、斜め前両側から同時に火の玉が飛んできた。蘭と俺の側まで飛んでくると火の玉は消滅する。これは、先ほどまでの戦いでも実証済みだ。
それを見てうろたえる四人の敵に蘭が斬撃を俺は神力砲を撃つ。ところが、それは敵の前で弾かれた。
どちらも飛び道具が効かない。
女が窪地の中央で立ち止まって振り返る。
持つ力量が同じとなると、数の上で優位と悟ったのか、少女が余裕がありそうに口を開く。
「セオリツとトヨタマの子とは、好都合。ここで屠ってくれるわ」
少女は手の平を上に向けて、火の玉を作り出した。
どんどん、大きくなっていく、アマビエが作る神力玉と同等の大きさまで膨らむ。あれを投げられたら、さすがにヤバイわ。
「蘭、濡れるぞ!」
俺はそういうと、雨合羽のフードを被りイカ神石を握って祈る。
神水の土砂降りのドームが俺を中心に広がる。
神水の雨が蘭も敵四人も少女も巻き込む。
少女の作り出した火の玉が、ジューっと音を立て、湯気に変わっていく。
「くぅ!」
少女や四人の敵が苦しんでいる。神水の雨の中、五つの取り憑いた紫に怪しく光る靄がうごめき、一つまた一つと消えていく。
その中で、木刀を構えた蘭が水飛沫を上げて走る。
四人の敵を切り捨てた。
「くははは!」
雨の中で、残った少女が笑い始める
少女から紫の靄は消えていた。
「流石は神だな。私を乗っ取り苦しめた黄泉のものをこうも簡単に消してくれるとは。むしろ感謝せねばならん」
どうなってるんだ? この少女はどうみても、まだ何かに憑かれているように見える。
俺は、祈りを解いて、ドームを消す。後には倒れた四人の敵と、ずぶ濡れになった蘭と少女が残った。
「朕は儘同天皇の意思、この国に平安をもたらすために必要な大いなる意思」
「朕って、偉そうにコピーのくせに。平安って、お前の時代錯誤はむしろ平安を乱しているんだよ」
「なんと、朕を愚弄するか! 何様のつもりじゃ」
「神さまだよ」
「おのれ~、憎っきセオリツ」
やっと自分の仕事を思い出したようだ。千四百年もやってきたから何がなんだか判らなくなってるんだろうな。
とは言うものの、少女に取り憑いた状態では、マルキュウには食べられない。少女ごと食べてしまうからだ。
かと言って黄泉の者のように神力でも追い出せない。こうして権力者に取り憑いて利用して意思霊は仕事をしてきたのだろうな。どうやって少女から追い出そうか。
考えていると、蘭がスッと少女に近寄り、少女を手刀で打った。少女が気を失ってガクッとうな垂れると同時に、少女から黒い煙のようなものが立ち上がり、大きくなった。これが、意思霊の本体なのだろう。
「マルキュウ意思霊を食べろ」
俺は龍玉からマルキュウを呼び出す。
意思霊の黒い煙は、マルキュウを見るとサッと、蘭に乗り移った。
えっ! こいつは神にも取り憑けるのか?
「食べていい?」
マルキュウが聞く。
「ダメだ! ダメに決まってるだろう。意思霊が飛び出すまで待て」




