80 ホテル(愛吹目線)
装甲車って凄い乗り物なのね。後十分乗ってたら、私は確実に酔ったと思う。
ヤマシタさんと、ドレスさんって言う女の人、それに天龍叔父さんと私を乗せた装甲車は、事務所前でお兄ちゃん達と別れて、ホテル跡地に着いた。
こういうホテル跡とか、病院跡とか、夜の学校とか、絶対嫌! もう、鳥肌がビンビン立つのが分かる。って、今日はそれを私が叙霊に来たのだけどね。
降りると、使っている人たちがいるからか、結構まだ綺麗なホテル前で黄泉の厄病魔が住むには勿体無い場所だった。
「愛吹さんお願いします」
ホテル前の目隠しのように立った障壁角地に立って、私は神石を持ってお祈りを始める。
「お母さん、どうか力を貸してください」
何処からか笙に似た音が聞こえて、神力が私を中心に広がっていく。春のような暖かさと、朧な光の感じが常世の龍宮を思い出させる。
「愛吹さん、ホテル全体にドームが広がりましたので、落としてもらって大丈夫です」
ドレスさんにそう言われ、私はドームを小さくする。
神力を節約しとかないとね。もし、こっちに意思霊が出たら、お兄ちゃん達が来てくれるまで私が頑張らないといけないものね。
ドームを小さくしたことで、私にも少し周囲を見渡す余裕が出てきた。
ジャッカルの人たちが、ホテルにいた人たちを次々に電線を縛る道具で後ろ手に縛って集めている。縛られた人たちはまだ厄病魔の抜けた抜け殻のようで、ぼーっとされるがままになって集合している。
そんな中にも、自分の意思を持って、ジャッカルの人たちを攻撃する人もいて、そういう人たちは手錠で拘束されて何か薬を使って大人しくされているみたい。
そんな一人が、角材を振り上げてドームの中に入ってきた。ドレスさんが私をかばって前に立ち、叔父さんがその男と対峙する。
叔父さんは、男の懐に飛び込んだと思ったら、あっと言う間に背負い投げみたいな技で投げ飛ばして、ひっくり返した。ドレスさんが、直ぐに男の顔に何かのスプレーを振りかけて大人しくさせ、二人で手を後ろに回して手錠をはめた。
二人で何度も練習していたのだろうか?
流れるような鮮やかな手順に私は驚く。
「わはは、愛吹ちゃんには、この紅毛天龍が指一本触れさせぬ」
叔父さんが高笑いして、チラッとドレスさんと目配せしている。ドレスさんが、叔父さんを見る眼差しが熱い。
あれれぇ~? これは、叔母さんに報告する必要アリかも。
マルキュウは、ホテルの側まで来たと思ったら、別の方向に向いて飛んで行った。ここには、マルキュウが食べるものがもう残っていなかったのね。
それを見て、私はもう神力ドームを解いても大丈夫かなと思って、お祈りを止めた。
「どうかしましたか。愛吹さん」
ヤマシタさんが、駆け寄ってきて神力ドームを解いた私を気遣ってくれる。
「マルキュウが戻って行ったので、もうここには、厄病魔は残ってないのだと思います」
「そうですか、叙霊が完了したとはいえ、まだ小ボスが残っているでしょうから、警戒は怠らないでください」
ヤマシタさんは、そう話しながら、無線に応答している。お兄ちゃん達の方は全部終わったらしい。




