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79 二刀流

「危ない! 大ちゃん!」

 蘭の声で振り向くと、目の前に火の玉が飛んで来ていた。当たる! っと思い、思わず身体に力を込める。


 プッシュ~…


 火の玉は俺の五十センチほど前で消えてしまった。

 俺の身体から思わず、神力が出たようだ。

 なんだ俺には、この火は効かないのか。さっき破れたけど、せっかく雨合羽着てきたのに…


「そんなバカな!」

 撃ってきた奴が、社員寮の陰で怒っている。

 陰に隠れていても、蘭の曲がる斬撃に逃げ場はないぞ、っと心配してやったが案の定、「ギャウ!」と叫び声を上げてやられている。こいつも手錠組だ。


「ありがとう蘭」

「どうやったのだ?」

「当たると思って身体を強張らせたら、神力が出たんだろうな、勝手に消えた」

「覇気というやつか?」

「じゃ、ないと思うけど」


 スミス君とラパラ君が、事務所に催涙弾を打ち込んで残ったものがいないか確認している。

 事務所から社員寮の制圧に二人が向かうのを見て、俺と蘭は、社宅エリアに向かった。社宅と言っても平屋の建物が五軒ほどあるだけだ。


 エリアの入口を五人の木刀を持った男達が塞ぐように立っていた。

 只に操られている人達と違い、車で襲ってきたのや、火の玉を飛ばしていたの、そしてこういう武器を持って明らかにこちらに危害をくわえる意図を持って行動しているのが、手錠組の小ボスで、叙霊後も警戒の必要な組織の人間なんだろう。


「任せて、大ちゃん」

 蘭は俺にそういうと、木刀二本を両手に持って、駆け出した。

「おぉぉぉ~!」


 右の男が振り下ろした木刀を、右で受け、左で左の木刀を振り上げた男のわき腹を横殴りにし、ついでに最初の男を脚払いにしてひっくり返した。

 続いて前に立つ男の手を左手でコテ打ち、持った木刀を落とさせて左足でキックを入れ、その右後ろにいて、木刀を振り下ろせずにいる男のわき腹を右でなぎ払い、その後ろの男が突いてきた木刀を左に仰け反ってかわし、右手の木刀を投げつけて男がバランスを崩したところを、両手で袈裟切りにした。


 一瞬の出来事だった。

「強えぇぇ…!」

 俺のフィアンセが、二刀流で無双しているよ。

 スミス君とラパラ君もあっけに取られている。


「ふん! この間の恨みだ。すっきりした」

 と蘭はそう言いながら、投げた木刀を拾いに行く。

 怒ってたんだねぇ~


「ハイハイ、神力で叙霊と治癒してやるから。蘭を相手に剣のようなものを持ったのが間違いだったな」

 俺は、そう言いながら転がって苦しんでいる五人を順番に治癒していった。こいつらは、犯罪者組のほうだから結束バンドでなく手錠だ。


「ご主人さま、全部食ったぞ。不味かった~」

 マルキュウが返ってきた。

「よーし、よしよし。偉いぞ~。じゃぁ、一度龍玉に戻って休んでろ。後で、もう一度、劇マズなのを食ってもらうからな」

「えっ!…」

 マルキュウは泪目で龍玉に戻っていった。


 スミス君とラパラ君が、最後の社宅の制圧を終えた。


「大体、このエリアは終わったかな」

 拘束した人たちは全部で二十八人いた。うち小ボスが八人かな。


 スミス君が無線で確認している、ホテルの方もボスは現れていないとの連絡。まだ少し過激な者が残っていて、ジャッカルの五人で交戦中とのことだが、まもなく制圧できるだろうとのことだ。


 そこそこ大きな船が近づいてきた。先ほどの連絡で、後処理部隊が動き始めたらしい。

 ボスは出てこなかったな。どこにいるんだろう?やはり窪地なのだろうか…とふと見ると、俺達が抜けてきた砕石場の方に、巫女のような格好をした女が立っている。


「おのれぇ~、セオリツ!… にくい… にくい!」


 あれか? あれが意思霊か?

 人に憑いてるんじゃ、マルキュウに食わせられないじゃん。

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