77 沖中島
沖中島は東西が南北に比べ長い島だ。島の南西部は砕石時代の大型船のつく大きな護岸と、コンベアーとクレーンが今も残っている。そこから東へ砕石を済ませた平坦な荒地が広がり、中央が南北に少し括れていて、その北面に入り江があり、入り江に沿って北面の大型ブルドーザーで走りまわったであろう、やや広い道路が東西を繋いでいる。
括れの西北側の入り江の西の道路脇にかつての事務所と社員寮や少しの社宅が残り、その裏手にあたる括れのあたりから東にまだ砕石しきっていない五十メートルほどの小高い丘が東面と南面の海まで続いて最後は磯になっている。
ホテル跡は、入り江の東岸の丘を削って作られた、少し高台にあり、その北面の海側から入り江に沿って海水浴やキャンプも出来そうな浜辺になっている。
社員寮裏手の括れの中央部が、西から進んでいった砕石の最終地点になっていて、残った丘も削ろうとしていたのか、窪地になっていてよく分からないが、丘を立てに切ったような崖になっているのだと思われる。
ヤマシタさんが親玉やその側近が潜む場所として怪しんでいるのは、この窪地だ。
ホテルまで進んでしまった後、社員寮側の道路をボスキャラに陣取られると、俺達は退路を立たれることになるとヤマシタさんは懸念している。
「スミス、ラパラ、大和さん、蘭さんは、対親玉戦を踏まえて、事務所、社員寮、社宅の制圧とともに、そこで待機していただきたいのです」
「なるほど、二手に分けて対応するということですね」
「はい、もしホテルに親玉が居た場合は、退路を断たれる心配はありませんから、駆けつけて頂ければと。私は窪地に天龍さんのおっしゃる裂け目があるのではないかと睨んでいます」
「そうだとすれば、最終的な戦場は、親玉を押し返した窪地になるということですね」
「そうです、叙霊したものは片っ端から拘束具で拘束する予定ですが、裂け目から新たな厄病魔が出てきて、また取り憑くということも考えておかねばなりません」
裂け目の封印か…また新たな問題が出てきたな。まぁ、これについては、退治が済んだ後、実際に見てから判断するしかないな。
「撤収と後処理については、カル様と公安で調整中です」
「そうなんだよ。公安も沖中島の組織は以前からマークしていたんだが、何度人を送り込んでも戻ってこなかったそうだ。今回は参加すると言って聞かなかったんだが、今回はうちのチームに勝算があるから、邪魔をするなと言っておいたよ」
ばーちゃんはシレっと言うが、公安に邪魔をするなって言えるって、どんな権力を持ってんだろ。
「どの道、憑かれていた人たちの保護と更生は国でやってもらわないといけないからね。後始末は国でやって貰って当たり前だ。だから、あなた達は後のことを気にせず暴れておいで」
心強いなぁ~、最初の頃は神力を使うだけでも逮捕されるとか心配してたもんなぁ~。
「そうだ、スミス君とラパラ君には渡したけど、他の人達にも神石を渡しておきます。これを持ってると厄病魔に憑かれて、味方が敵になる心配がなくなるからね」
と俺は五つの虹色神石をチームのみんなに渡した。
「すまないねぇ~」
「何を言ってるんだ、ばーちゃん。これまで散々世話になってるんだから」
「ハーイ、大ちゃん!」
蘭が突然手を上げる。
「なんだ? どうした?」
「私の武器の斬撃だけど、見せておきたい技があるんだ」
「ほぉ、蘭、何か技を習得したのか?」
と叔父さんが武芸者らしく興味を持つ。
「じゃ、二階の道場で見せてもらいましょうか」
とヤマシタさん。
「それほど、大した技じゃないぞ」
とみんなの注目を浴びて、及び腰になる蘭。
道場に移動した。
「じゃぁ、義父さん、そのサンドバックの裏に隠れてくれ」
「こうか?」
叔父さんが、大きな体をサンドバックの後ろに隠す。かけてあった木刀を握った蘭は、サンドバックの正面に立ち、斬撃を撃った。
鎌形の斬撃が、サンドバックと叔父さんの横を通りすぎ、叔父さんの背後で回りこんで、Uターンするように叔父さんに命中した。
「痛っ!!」
叔父さんの背中に命中した斬撃の衝撃で、サンドバックが音を立てて揺れ、叔父さんはダウンした。
「曲がるのか!」
「ブーメランだな」
愛吹が叔父さんに駆け寄って、神力で治癒し、立ち上がった叔父さんも驚いている。
「斬撃が鎌形だから、回転させたら曲がるかなと思って密かに練習してたんだ」
「すげぇ、サイ〇ガンみたいだな」
「これで影に隠れた奴も撃てるぞ。名づけて円転滑脱だな」
出た!蘭の一つ覚えの四文字熟語。




