73 掃討
龍玉も得て、俺達は再度、時奴邸を訪れていた。
玄関で、カルばーちゃんが出迎えてくれる。
「大和君、愛吹ちゃん、蘭ちゃん。とんでもない龍を釣ったそうじゃないか」
「協力してもらえて助かったよ。ありがとう」
そんな会話を交わしながらカルばーちゃんは、チームジャッカルの三人と他男女四人の計七人を紹介してくれる。こちらは、俺、愛吹、蘭、叔父さんの四人。この十一人が意思霊との対決に望む。
俺的には、俺達三人でなんとかなるかと思っていたのだが、上陸、後始末などを考えるとプロの意見としては、最低このくらいは必要だそうだ。
「それより、ばーちゃん。この時奴邸に入っている厄病魔の数って、他所よりも多くないか?」
俺は、カートで本邸に移動する間、神水サングラスで邸内の様子を見ていた。道中だけでも五十以上の厄病魔を目撃したのだ。
「そうなんだ、神水サングラスを作ってはじめて分かったことなんだが、これなら誰が憑かれてスパイになったとしてもおかしくない」
「よく、これで病人が出なかったな」
「今は、全員が神水を飲むよう義務付けて相互監視させているから大丈夫だと思うが、そんなこともあって神水がいくらあっても足りないんだよ」
「龍に食わせてやろうか?」
「そんなことが出来るのか?」
「この間、龍を釣って出てきた龍玉の龍なら喜んで食べると思うよ。この間のお礼というか、結果報告も兼ねて、みんなにマルキュウも紹介したいし、俺達の力も見ておいて欲しいしね」
「マルキュウというのは?」
「その龍の名前だよ。みんな神力サングラスをかけてね」
俺は、龍玉に神力をこめた。玉からマルキュウが出てきた。
「丸い玉から出てきた、究極の力。我が名はマルキュウ!」
マルキュウは、これを止めるつもりはないようだ。
「ば・か…」
「おぉ~!」
それでも、初めて見る人たちは驚いている。
ドヤ顔のマルキュウ。
「おい!」
「はい、ご主人さま」
「この屋敷の敷地内にいる厄病神を全部食ってこい」
「人に憑いてるのは、人ごと食べてもいい?」
「ダメだ、人は食べるな」
「人だけ残して食べれないから、それは残すよ。頂きます。」
マルキュウは空を駆けて、鳩が豆を食うように広い敷地内の疫病神を啄ばんでいった。
「これはすごい、黄泉の者がいなくなっていく」
「ご主人さま、全部食べたよ~」
「よーし、よしよし」
マルキュウの頭を撫でてやる。マルキュウは目を細めて嬉しそうに尻尾を振っている。
「人に憑いて食べれなかったのは、五人だよ」
「そうか、じゃぁ、ハウス」
マルキュウは龍玉に戻って行った。
「じゃぁ、人に憑いた分は俺達で消そうか、五人って言ってたな」
「まっておくれ、作った神水銃の効果も確かめたいからね。…お前達」
カルばーちゃんの命令で、ジャッカルの七人が動き始める。屋敷の影にいた庭師のような人に、スッと近づいたかと思ったら、水鉄砲で撃った。
水鉄砲はよく見る子供が使うピューっというようなものではなく、パシュッパシュッっと小気味の良い音で発射され、短い水の筋が孤を描くこともなく、連続してかなりの速度で標的に命中した。あれは当たったら結構痛いだろうな。
憑依した紫の靄が消えていくのが分かる。
子供だましではなく、かなり高性能の銃のようだ。
撃たれた庭師は我に返り、神水を飲ませれている。
「五体、排除しました」
「ふむ、まぁ、うちの方もこんな感じだよ。人に憑いた分はなんとかなるんだがね、先の龍が食べたような実態がないのは、どうしようもないんだ」
「たぶん、これで全部消えたとは思うんだけど、最後に愛吹の力で仕上げをしといたほうがいいよね。どのくらいまで広がるか俺も見てみたいし」
「うん、いいよ」
愛吹は神石を両手に挟んでお祈りを始めた。
愛吹を中心に神力のドームが広がり始める。
「これは!」
誰もが初めてみるその力に驚く。木が音を立てて枝を張り、秋だというのにカート道沿いの桜に花が咲いた。バラが開花し、ツツジも花を広げ、庭にも芝生にも花が咲き乱れた。
ドームはどんどん広がり、半径三百メートルは膨らんだのではないだろうか?その範囲内は庭師を気の毒に思うほど、草木が活性化した。
神水サングラスで見ると、キラキラと光り、光りの塊の中にいるように感じる。
「開いた口が塞がらない凄まじい力だね」
「愛吹ちん凄いぞ」
叔父さんは、顎が外れたように口を大きく開けたまま言葉が出ない。たぶん、愛吹の神力は母譲りで、俺よりも格段に強いのだと思う。これで成人の儀を超えたらどうなってしまうのだろう?
確かに愛吹は常世に住むべき神なのかも知れない。




