71 龍玉
「母さん、龍玉を手に入れたよ。これどうやって使うか知ってる?」
「あら、大和。もう手に入れたのですか」
ヤサカニノマガタマで常世の母と通信を始めた。
「神力を通せば、龍が出てきますよ」
「一度使うと無くなるのかな?」
「そんなことはありません。何度でも使えますが、そのヤサカニノマガタマと同じで、時間が経つと龍は消えて、また神力が必要になります」
「そうか、じゃぁ安心だ。ありがとう母さん」
「でも、しつけないと言うことを聞きませんよ」
しつけって? 犬みたいに? 聞いておいて正解だったな。
「そうそう、蘭と婚約したんだ」
「あらまぁ、そうなのですか。それは豊玉様がお喜びになられるわ。ちゃんとあなたから言いましたか?」
「愛吹に言われて、申し込み直したよ」
「愛吹は賢いですねぇ~」
「龍玉とヤサカニノマガタマ、そして先日の潮満珠の三つは神器として大切に持っておきなさいね・・・・」
通信が途切れた。
最後に母さんが言った神器とは、葦原で俺達が持つ三種の神器にあたるのだろうか?
ならば、母さんは俺達が葦原に残る未来がもう見えていることになる。母さんと話していると、チョロチョロと未来を小出しにしてくるので、どうも調子が狂う。あまり深読みしないでおこう。
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翌日、蘭と愛吹の三人で、また海に出た。
今日は釣りではなく、龍玉の龍をしつけるのが目的だ。これまでの流れからたぶん、龍は他の人からは見えないと思うが、海の上だと他の船も確認しやすいし、意思霊の手先が来ても直ぐに分かる。まさか人に乗り移ったものが、海の中からは現れないだろう。
アマビエが俺達を見つけて早速やってきた。
「今日は釣りではないのかのう?」
「うん、今日は龍玉の龍をしつけるんだ」
「龍を出すのか? 大丈夫かの」
先日の生々しい龍を見たばかりなので、不安がっている、実は俺も不安だ。
「まあ、とにかくどんなのが出てくるか、やってみよう」
俺は龍玉に神力をこめる。
高速で流れる煙のようなものが、龍玉から飛び出し空中で龍に変わった。釣った龍よりも二周りは大きく五メートルくらいある。
「呼ばれて飛び出てパオーん!」
「しゃべるの?」
「はくしょん大〇王か!」
「なんだか、お茶目なヤツが出てきたぞ」
ちょっと意外な登場に俺達は驚いた。というか、思いっきり引いた。
「滑ってころりん、スッテンテン!」
「ウザ・・・」
「あんなにみんなで苦労して龍玉を手に入れたのに、こんなウザイのが出てくるとは」
俺は少し泣きたくなった。龍は笑って欲しかったのか、少し困っている。
「とりあえず、ご主人様と言ってみろ」
俺は龍に命令する。龍は上目使いで話す。
「ごしじゅんさまぁ~?」
「噛んだな」
「いや、ワザとだよ」
「こいつ、斬撃で撃っても良いか?」
「・・・・・ぶっ、ぶひゃひゃひゃひゃ~!」
アマビエが堪え切れずに笑った。転がってデッキを叩いて笑っている。
「こら、バカ神! 笑っちゃだめだ、このウザ龍が調子に乗るじゃないか!」
「ごしじゅんさま~…ぶひゃひゃひゃ」
腹を抱えて笑っている。何が可笑しいんだか、アマビエのツボには入ったようだ。ひょっとして神って、かなりつまらない毎日を送っているのでは? ちょっと心配になる。
龍は、救いの神を見るような目でアマビエを見る。
「龍で、ござりゅう…」
「調子に乗るな!」
俺はとうとうキレて、龍の顔をイカ神石の墨球で覆った。
「だめぇ~、暗いの怖い。ひぃぃぃ」
マジか? 龍の癖に暗いのが怖いのか? こいつ使い物になるのか?
「許してください、ご主人さまぁ~」
たまりかねた蘭が、斬撃で墨玉を壊し、ついでに龍にも五発お見舞いした。龍は痛かったのかしょんぼりしている。




