70 ファイト2
龍がまた動き始める。ドラグが出る。
ハーネスで固定された俺は身体ごと引っ張られる。それを蘭が自分の全体重をかけて押さえ込む。愛吹も加わった。俺は思いっきりフットレストに踏ん張り、こなくそっと全力を使って竿を立てる。
まるでテニスやバレーのネットを張る時にウインチを回すようにリールを巻く。また踏ん張って竿を立てる。
龍がラインに巻きつこうとのたうちつ。
そうはさせまいと、俺は竿を立て龍の頭をこちらに寄せる。
再びスミス君がリーダーを掴み、手繰る。
ラパラ君が龍の頭の後ろにギャフを打とうとする。
龍が首を振る。またリーダーを放す。
それでも、かなり龍は弱ってきた。
再びスミス君はリーダーを掴み、ラパラ君がとうとうギャフを打った。
龍が最後の力を振り絞って、船べりを掴もうとする。ヤマシタさんは、船を微速前進させる。
龍は掴みそこね、ラパラ君が打ったギャフのロープがスルスルと滑り、それをスミス君、ラパラ君の二人が掴んで支える。
「ファイト終了です!お疲れ様でした」
「ふわぁぁ~、アマビエ、龍玉が出たら頼む」
「承知した!まかせておけ」
俺は、竿から手を離して、ファイティングチェアの上で仰け反った。
大きく伸びをした後、ハーネスを外して立ち、船べりに移動して自分の獲物を確認する。
でかい!目玉だけでも俺の拳よりも大きい。
虹色の龍が、鮮やかなオレンジに変わった。
それは一瞬の出来事だった。
ブルーマーリンは、死ぬ間際に鮮やかな青色に変わると聞くが、龍も同じようなものかも知れない。
そして、光の屑に変わった。
「あれだ! アマビエ! テニスボール大のオレンジの玉」
「ほい、わかった」
アマビエは、海に飛び込み龍玉を追って潜っていった。程なく、龍玉を手にしたアマビエが船に戻ってきた。
「これじゃの」
「でかいなぁ~」
「身体もでかかったからの」
「ありがとう、これでスクナビコナ様のクエストクリアーだ」
俺は、スミス君とラパラ君にもお礼を言って、がっちりと握手。
「すばらしいファイトでしたよ。ドラゴンスレイヤー」
「えっ!わはは、龍を釣ってもドラゴンスレイヤーなんだな。いや、三人のお陰だよ」
スミス君に最高の誉め言葉を貰った。
二階の運転席にも上がって行って、ヤマシタさんにも礼を言って、日本人同士でおっさんとハグ。
「ありがとうございました」
「いや~、瀬戸内海でこんな面白いものが見れるとは思いませんでしたよ。今度は是非一緒にハワイに行きましょう」
「蘭、次釣るか?」
「無理無理! あれは釣りじゃないぞ。私は何度斬撃で撃とうかと思ったか。まるで虎退治だ。大ちゃん、惚れ直したぞ」
「何も出来なかったけど、怖かったわぁ。もういや!」
愛吹と蘭はそう言いながら、龍が消えたあたりを眺めている。
「じゃ、これでミッション終了だな」
ヤマシタさんは、無線で海上封鎖を解く連絡をしている。
「それじゃ、ラウンジで乾杯しましょう!」
「ご苦労さまでした!」
アマビエが拾ってきてくれた龍玉を中央のテーブルに置き、みんなでそれを眺めながらの乾杯。
「次は、意思霊だな。でも、この龍玉ってどうやって使うんだろう? バカ神さまは何か知らない?」
「我も龍玉を見たのは初めてじゃからのう、でも普通に神力を送り込めば何か出てくるんじゃなかろうかのう」
「それは、たぶんそうだと思うんだけど、龍玉というくらいだから、一回使ったら終わりなら、また釣らなきゃならないじゃん」
「大ちゃんは、アニメの見すぎだと思うぞ」
「一応、念を入れて帰って母さんに聞いてから使ってみよう」
そう言われてもまだ俺は、まさか九つ集めなきゃ役に立たないってなオチじゃないだろうな、と心配していた。




