68 龍仕掛け
「絶対に私以外はラインを触らないようにして下さい。下手をすると手が飛びますよ」
スミス君の説明が始まる。
「龍を掛けたら、ハーネスで体とリールを固定します。ドラグを締め過ぎるとリールごと海に連れて行かれますから、ドラグは指示に従ってください」
「ドラグは最初は十二キログラムに設定してあります。これでも身体を持って行かれます。ファイティングチェアのフットレストで踏ん張って耐えてください」
ファイティングチェアーというのは、見た目は歯医者さんの椅子のような感じだ、魚の方向に正対できるように回転し、踏ん張るフットレストがあり股の間にある竿受けが前後に移動するので、テコの原理を用いて身体を使って魚とやり取りできる。
「最大は二十キロくらいまでドラグを締めます。そうなると、私とラパラで身体を押さえておかないと浮いてしまうでしょう」
「ラインは百三十ポンドで、ダブルラインを組んで、その先にワイヤーリーダーを付けてあります。ドラゴンの歯が凄くても二ミリのワイヤーは切れないとは思います。これで切れれば仕方ないですね」
「竿は、やりとりの時は、ファイティングチェアーに差したまま使います。水平に動きますので、この曲がった竿の方が使いやすいです」
なるほど、それで竿が曲がっているのか。で鉤はこの四ミリほどの径でスマホほどあるでっかいヤツなんだな。
「どうやってイセエビを沈めるかですが、この鉄筋二キロを捨て錘として使います。細いラインで鉤の下、とりあえず五メートルに結び、龍がかかったら切れるダウンショットリグの大きなものだと考えてください」
これは、スミス君と二人で前もって考えた仕掛けだ。カジキは普通トローリングで釣るが、常世ポイントは狭くピンポイントで落とさなければならない。
常世の海では、どのみち鉄筋はラインが切れると消えてしまう。キンメダイ釣りなんかで使う苦肉の策だ。
常世の海だから、少々荒い仕掛けでも食ってくるとは思う。
イメージとしては、鉄筋だけを着底させて、底から五メートルのところで、イセエビが動いている感じだ。
イセエビは好物らしいから、ワニみたいな口で丸呑みしてくるんじゃないかな。
道具と説明を聞いているだけで、本当にこれを釣らなきゃいけないのかと思えてきた。蘭と愛吹は青ざめている。
「さて、では始めるとしましょうか」
ヤマシタさんの合図で、イセエビに鉤を尻掛けし、先ずは鉄筋、続いてイセエビ。ファイティングチェアにロッドを立てたまま、リールをフリーにして手でラインを送り出しながら沈めていく。ラインの抵抗が変わり、錘が着底したことが分かる。リールのドラグを戻し後は龍がかかるのを待つのみだ。但し俺は一時も竿からは手が離せないのが難儀だ、離すと常世との繋がりが切れてしまうからだ。
だから俺は、はじめからファイティングチェアに座っている。
「空いた手でお茶でも飲みながら待つか」
「そうです。果報は寝て待てと言います」
「スミス君、よく勉強しているなぁ~」
「カル様が良くその言葉を使います」
「チーム名に名前を使うくらいだから、みんなカルばーちゃんの事が好きなんだなぁ」
「そうです。カル様は、私達を使い捨てにせずとても良いオーナーです」
「なるほどな。信頼が厚いんだ」
そんな事を話していたときだ、カタカタっと竿が振動を始めた。途端に、けたたましい勢いでリールのドラグが滑り始める。龍が来た!
今は手を出さず、どんどんドラグを出してください、龍に完全に餌を飲ませます。リーダーマンのスミス君が皮手袋をしてラインを触りながら、龍の様子を伺う。
「そろそろですね。竿を持って押さえていてください」
ドラグを締め、船を発進させる。掛かってしまえば、常世のポイントにこだわる必要はない。船を使って龍を常世から引きずり出す。
船が停止しスミス君がドラグを戻し俺は竿を持ったままラパラ君にハーネスを付けてもらう。
「さぁ、ファイトです!頑張って!」




