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61 プロポーズ

 離れるのを寂しがる母二人を後に、俺達はアマビエの門を通って自宅に戻った。確かに、ここを出た土曜の正午過ぎの時刻をテレビもスマホも示している。


「海の門ならば開きっぱなしでも、支障はないが、この門は間違いがあってはいかんので、閉じておくぞ」

「うん、その方がいいだろうね」

「また、行きたくなったら我を呼ぶがよいぞ。もっとも成人の儀が終われば、そなた達が自分で開けるようになると思うがの」


 常世の行き来が自由になるということか。でも人としての暮らしは出来なくなってしまう。たぶんアマビエと同じように神力を持たない一般の人には見えなくなってしまうのだろうな。

 実際、これまで小市民として人として生きてきた俺としてはかなりの抵抗がある、今の仕事も辞めなくてはならないし、暮羽ともたぶん二度と会えなくなるんだろう。


 今なら、まだどちらの選択も出来る。

 意思霊退治をやめ、成人の儀を行わず人として今まで道りに生きていく選択も出来る。

「愛吹や蘭は成人の儀についてどう思う?」

「私は、魅力的だと思ってるよ。だって不老不死で、常世で私の好きな歴史の流れをずっと、見ていられるんだよ。しかもお母さんやみんなと一緒だよ」

 愛吹は、目をキラキラさせてそう答える。あまりこの世にしがらみはないらしい。そんなものなのかな?


「蘭は?」

「私は…」

 顔を赤らめて俯いていたが、意を決したのか顔を上げ真っ直ぐに俺を見て口を開いた。

「大ちゃん次第だな」

「へっ?!」

「だから、永遠だろうが、一生だろうが、私は大ちゃんについて行くって言ってるんだ!」

 蘭は顔を赤らめ、そっぽを向いてそう言った。


「蘭、それって? もしかして、プロポーズ?」

 愛吹が、キャーと言わんばかりに、両手を口の前で握り締めて、目をウルウルさせている。叔父さんと叔母さんが、後ろに花が咲いたように笑顔になる。アマビエは、なんだか知らないが踊りはじめた。


「ずーっと、大ちゃんが好きだったんだぁ~!!」


 まさかの、蘭の逆プロポーズは、巨大な斬撃のように俺を切り伏せ、俺は、石になった。


「良く言った蘭! まさか養女(むすめ)にここまで言わせて、断る…なんてことはないな! 大和君!」

 叔父さんは、紅毛流家元の覇気を思いっきり纏って、俺に迫る。叔父が途方もなく大きく見える。


「これは、常世の姫さまお二人と、養父母、そして私達の望みでもあるのです」

 普段は無口な叔母さんも、叔父さんの覇気に負けないほど淡々と追い討ちをかけてくる。

「お兄ちゃん!」


 これは、常世に行ったときから、もう詰んでる。

 逃げることは出来ないようだ。


「つ、謹んでお受けします…」


 蘭の顔がパーッと笑顔になった。

「大ちゃん!」

 思い余って、体当たりで抱きついてくる。

 俺は、今、言った言葉の意味をもう一度確認するように、蘭を抱きしめた。


 先ほどまで悩んでいた人生の一大選択が、今やどちらでも良いことのように思えてきた。


 人間やめて、蘭と二人で神さまになるか。


「でもねぇ、お兄ちゃん、蘭、それじゃぁダメなの」

 なんですか? 愛吹ちゃん、この後に及んでそのダメ出しは?

「イザナギ様とイザナミ様の時にね、結婚を女の方から申し込んだから、子供が出来ないってカムムスビ様に言われたの、だから、もう一度ちゃんとお兄ちゃんから、プロポーズしてあげて」

「えっ、えぇぇ~」

「そうだった、大事なことだった。大和君頼んだぞ」

 と叔父さん。家族みんなが見守る中で、プロポーズを俺の方からやり直せと! 何の罰ですか!


「こっほん」

 蘭を中心に全員が期待に目を輝かせて、俺を凝視する。

「らっ、蘭」

 ゴクッと蘭が喉に唾を飲み込む。

「こっ、これからは、おっ、俺の女神になってくれ」

「はい」

 と、蘭が恥ずかしそうに俯いて返事をした。


「噛んだな。四十点」

「いえ、六十点はあげましょう」

「お兄ちゃんにしては上出来だよ、六十五点」

「むはは、我は九十点じゃ」

 叔父、叔母、愛吹、アマビエがすかさず採点する。

「点数つけてんじゃねぇよ!」


 ぷぅ! あははははは!

 蘭がついに堪え切れず、爆笑する。


 生涯最大の岐路の決断、これから命をかけるかも知れない戦いが待っているというのに、俺達はこれでいいんだろうか?

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