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57 龍宮

 愛吹、蘭と一緒にボートで釣りをしながら、アマビエが来るのを待っていた。

「待ってるとなかなか来ないんだよなぁっ~」

「呼んだかの?」

 おっ、アマビエの声だ。

「今日は待っていたんだぞ」

「なんだか、不吉な予感がするのう。どっこらしょ」

 俺達はアマビエを説得する方法を三人で話し合ってきた。

 結局、ヤサカニノマガタマを使って、母さんを呼び出し説明してもらうのが、一番手っ取り早いということになった。


「まぁ、バカ神様、クリームパンでも食いながら、これを見てくれ」

「それは、先日タコから出てきた石じゃのう」

 俺は神力を通す。

「えっ! えぇぇぇ~!!」

 ボタッと、アマビエは驚きのあまりクリームパンを落とした。

「乙姫様!」


「あら、アマビエ、久しぶりですねぇ~」

「前に常世に行ったきりですから、百五十年ぶりくらいでしょうか?」

「子供を連れてこの時代に来ましたから、常世でないと会えなくなってしまっていたのですよ」

「この時代にお子様ですか? まさか…」

「そうそこの、大和と愛吹が私の子供ですよ。蘭姫は豊玉様のご息女ですよ」

「えっ、えぇぇぇぇ~、どおりで神臭が濃いはずだ」


 ここで俺が口を挟む

「ということで、常世に行きたいんだ。門を開いてもらえないだろうか?」

「そういうことであれば、我は喜んで開くぞ。我も一緒に行く。ここで良いか?」

 アマビエはボートの上に門を開こうとする。

「いやいや待って待って、ここじゃ不審すぎるから、うちの家で開いてくれないか」

「よいぞ、では行こう。急いで行こう」

 まるで久しぶりには飼い主にあって、喜んで千切れんばかりに尻尾を振っている犬のようだ。


「じゃぁ、母さんそういうことで、家に帰ったら常世に行くから」

「大和と愛吹に直接会えるのですか? なんと嬉や」

 よよよよよと、母はまた泣き崩れる。

「じゃぁ、待っててね」

 俺は、船を操縦して港を目指した。


----------


「では、良いかのう」

 叔父さん、叔母さんも集合した我が家でアマビエが使っていない両親の寝室の壁に門を開く。

 ヤサカニノマガタマの時と同じように、壁が光り人一人が通れる程度の門が出来た。

「では、参るかのう」

 アマビエを先頭に、一人づつ入って行く。

「えへへへ、アルバムを持ってきちゃった」と愛吹。

「それは、母さん喜ぶかかも知れないな」


 どこからともなく、森の香りに混ざって桃の良い香りがする。暖かくて少し運動をすると汗ばむだろうという気温、トンネルの出口のような明るい光の向こうに出てきたのは、色鮮やかな建物だった。たぶん、龍宮だろう。

 オレンジの瓦に朱塗りの木材。壁には七宝焼きのような焼き物が埋め込まれ、龍のレリーフがあしらってある。それが何処まであるんだというほど、続いている。


 中国風な正面の門をくぐり抜けると、いきなり朱塗りの欄干の橋で、左右に睡蓮が咲いた池になっている。この池がまた広いのだ。まるで内堀だ。池を覗いたら虹色の鯛が泳いでいる。海水で睡蓮が生えているのだろうか?

 途中で折れ曲がっているその橋の向こう側に母と思われしき女性が立って待っていた。


「大和、愛吹~」

「お母さん、会いたかった」

 愛吹が最初に抱きついた。俺が側で立っていると、「大和!」と愛情一杯の抱擁。だが、母はどうみても俺と同年代の女性、しかもとびっきりの美人。恋人どおしの再会のような絵面になってしまった。

 やばいやばい、母は不浄を嫌うのだった。俺は邪な煩悩を必死にかき消す。

「大和、立派になりましたね」

「いやぁ、まだまだですよ」

「私ったら、こんな所で皆さんを引き止めてしまって。さぁ、宮にまいりましょう」


 側仕えの人たちや神官らしき人たちやら、大勢がぞろぞろと付いてくる。三十人以上いるのではないかな。

 石の広い階段を登るとまた門だ、巨大な門だ。それを抜けたら、中央に大きな建物があり、左右に小さな建物と数筋の路地が見えて来た。ここにいる人たちの家なのだろうか? まだまだ最奥は見えてきそうにないのだが。

「そうじゃ、そうじゃ。龍宮とはこれほど広いところじゃった」

 アマビエが独り言を言う。


「宮に豊玉様もお見えになっていますよ」

 蘭がごくりと唾を飲み込んだ。

 叔父さん、叔母さんの背筋がシャンと伸びた。

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