55 クエスト
「儘同天皇の意思霊を退治してもらいたいのだ」
カルばーちゃんの頼みとは、千四百年存在しつづけた、意思霊という強い意志の霊を退治して欲しいというものだった。
「義父や警護の手練でも歯が立たなかったものを、俺が退治できますかね?」
「意思霊は黄泉と共闘しているからね、神でないと太刀打ち出来ないだろうと思っているんだ。でも私は、実のところ神と黄泉の化け物の対決をまだ見たことがないからね」
「戦えば、どちらかが消えると聞きました」
「うーむ、神と言えどもそうなんだね」
「やはり無理だろうかね」
「いや、俺としても義父の仇なのでね、なんとかならないか探ってみますよ」
「そうしてもらえると有難いね。こちらから手を出さなくても、あちらから手を出してくる可能性は十分にあるからね。あれが敵になった場合、私の組織ではあなた達を守りきる自信がほんとのところはないんだよ」
「今、黄泉の化け物って言いましたよね。それは多分目に見えないんですよね。ちょっとこれを見てもらえますか」
俺は、水差しの水を捨て、そこに神水を満たした。
「なんと、これは?」
「神力で生み出す神水です。この水で透かしてみると、目に見えない神や、たぶん、黄泉の厄病魔も見えるんじゃないかと思います」
俺は、スマホの写真にアマビエが写ったのだから、一般の人でも、神水フィルターを通せば見えるんじゃないかと思った。
「神力で水を生み出せるとは! 黄泉の者が見えるってのは本当なのかい?」
「まだ、確証は持っていませんが、多分です。俺には目に差しただけでも黄泉の厄病魔が見えます」
「えぇ! そうなの?」「はじめて聞いたぞ」
愛吹と蘭が驚く。叔父さんも知らなかったのか、驚いている。俺は続ける。
「厄病魔なら、消すには神力が要りますが、この神石を持つだけでもある程度遠ざけることが出きます」
「ほー! 流石は神だねぇ、スミスは居るか?」
すっ、音もなくスミス君が現れる。お前は忍者か! お庭番か!
「釜克殿のときに、捕らえてきた小者が三人ほどおったな。縛って連れておいで」
「たぶん、普通の人間なのだが、その黄泉の厄病魔とやらに取り憑かれて手先になっていたらしい連中を収容しているんだよ」
それって、人道上、法律上どうなんだろ?と思うが、保護していると解釈した。三十分ほどして、スミス君が縛った男女三人を連れてきた。全員ぎょろっとした目玉で、顔色も悪く、やせこけていて心が病んでいるのが分かる。
「どうです? 紫色の靄みたいなので覆われていませんか?」
分かりやすいように、神水を入れた四角形の透明ケース越しにカルばーちゃんが見てみる。
「本当だ、靄が身体にまとわりついて、ウゴウゴと動いているよ」
叔父さん、蘭、愛吹、スミス君も順番にケース越しに見て見えたようだ。
「この紫の靄が、厄病魔です。神石を近づけてみて下さい」
「おぉ、離れようともがいているように見えるよ」
「では、神力で消しますね」
縛られた男が、カクン! っとなった。血色が戻りつつある顔を上げて、なんで縛られているのか、俺達は誰なのかを考えて、恐怖を感じているようだ。人間に戻ったようだ。
「あんたは、長い悪夢を見ていたんだよ。きちんと身体を回復させて、思い出したら元の家族に戻してあげるから安心おし」
カルばーちゃんは、優しく男に言う。
「たぶん、神水を飲ませても、ある程度の効果があると思います」
それを聞いてスミス君に飲ませてみるようにカルばーちゃんが指示する。
神水を飲ませた残りの二人も厄病魔が消えたようで、前の男と同じように正常に戻った。
「なるほどね、長生きはしてみるものだ。神の力というものを目の当たりにさせてもらったよ。神水を挟んだ眼鏡を作らせるから、大目に神水を置いていっておくれ」
「なんとなく、見えるだけでも戦う目処が立ちそうだね」
「しかしながら、意思霊は、この程度では歯が立たんでしょうな」
叔父さんが、顎に手を当てて言う。
「そうです。だから俺は一度、常世に行ってこようと思っています」
「いや、大和君それは無理だ。一度行ったら、この時代にうまく戻ってこれるかどうかわからんぞ」
「えっ? 戻れない?」
「常世には戻れないことはないのだ、我らは道返玉を持たされておるから常世に戻る方法はある。しかし、常世からこちらに戻るのには、正確に狙ったこちらの時間には戻れないのだ。時間の流れに門を開くわけだから、運が良くて五年、下手をすれば三十年以上未来になる誤差が生じてしまうのだ」
「愛吹ちゃんや蘭と大和君が五年の年齢差で済んだのは奇跡に近いのだ」
「じゃぁ、こちらから門を開けば大丈夫なんですね?」
「しかし、それを出来る者は、この芦原には今はおらぬ」
「当てがあります」
退屈な話しが続きますので、小ネタです。
お気づきの方もおられると思いますが、登場人物のネーミングは、ほとんどが、釣具メーカーを文字ってます。
それで、変な名前の人が多いんです。




