51 天龍(天龍目線)
私は、紅毛天龍。古武道、紅毛流の家元をやっている。妻の常緑、一人娘の蘭と暮らしている。自宅と道場は別で、道場には住み込みでイギリス人のスミスなど、複数の門下生がいる。
何を隠そう、これは私の仮の姿だ。私と常緑は、常世という神々の住む国のわだつみ宮、トヨタマヒメ様の近衛職であった。そこでトヨタマヒメ様がランヒメ様を龍宮の乙姫様がのアイブキヒメ様を御出産された。高貴な神々の出産ラッシュに沸いた常世であった。
私達夫婦は乳母としてランヒメ様を傅としてアイブキヒメ様を抱いてこの葦原の中つ国に降りてきた。
先に降りておられたヤマトノミコト様と乳母夫婦の釜克、千霧子の元へアイブキヒメ様をお届けし、お二人の叔父として、ランヒメ様の父として警護も兼ねこの世界で生きている。
この話しは、三人には今のところは内緒で、私は父と叔父として、蘭、大和君と愛吹ちゃんと呼んでいる。
その大和君から、「叔父さん、蘭と愛吹も一緒で話したいことがあるので、伺わせてもらっても良いか」との打診。
最近、娘のランヒメ様は良く彼の船で釣りに連れて行ってもらってるようで、驚くような魚を持ち帰って来られる。そんな中での今日の席なので、ロイヤルウエディングの話しかな?と私は、大きな期待を持って彼が来るのを待っている。
「お父さん、大ちゃんが来たぞ」
「蘭、何度も言っているが、その言葉使いはなんとかならんものか」
「それは無理だぞ、私のキャラが変わってしまうからな」
「叔父さん、叔母さんこんにちは」
「おぉ、大和君に愛吹ちゃん。変りはないかね、ささ、座ってくつろいでくれ」
「突然にすみません」
「なになに、いや最近は大和君に蘭が世話になっているようで心嬉しいかぎりじゃ。他ならぬ大和君と愛吹ちゃんの話とあれば、この天龍、何を置いても聞かぬわけにはいかん」
「実は、これなんですけどね」
コロンと、テーブルの上に大和君が置いたのは、赤色の勾玉だった。これはなんとなく神玉ヤサカニノマガタマに似ているものだが、なぜ大和君がこれを持っているのか?
「これは?」
「突拍子もない話なのですが、アマビエという神さまに海で出会いまして、彼女の力で常世と通じた海で釣りをしていて釣れた蛸から出てきた石なんです。ヤサカニノマガタマと言うそうで、常世の瀬織津姫と通信できるようなのです」
「なんと、乙姫様と話しが出来たというのか」
「そうなんです。その母…に、通信できる時間がとても短いので、詳しいことは叔父さんに聞けと言われました」
「そうか…」
とうとう…というか、やっと二人の出自について明かせるときが来たのか。ロイヤルウエディングの話しかと思いきや、突然のことだが、話しの流れとしてはこの方が順当である。さて何から話をすれば良いのやら。
沈黙の後、私は襟を正し
「では、今こそ真実をお話ししましょう。常緑良いな?」
と前置きして妻と二人、お三人に額突いた。
「恐れ多くもヤマトノミコト様、アイブキヒメ様、ランヒメ様これまでのご無礼をなにとぞご容赦願いたい」
「ええぇ~、お父さんどうしたのだ?」
「あなた様は、我が主、豊玉姫様のご息女蘭姫様。お二人は瀬織津姫様の御子息、大和尊と愛吹姫様にあらせられまする」
「ぴぇぇぇ~!」
蘭姫様は自分の出自を初めて聞いて腰を抜かす。
「蘭って豊玉姫の娘だったの? じゃ、わだつみ様の孫じゃない」
驚かれる愛吹姫様。神の系列をよくご存知だ。
「し、知らないぞ、そんな人は。私も十八の時に両親が儀父母だと聞いて荒れたけど、姫って私は姫だったのか?」
「そうです、あなた様はトヨタマヒメ様とホオリノミコト様のご息女ですよ」
と常緑。
「アエズのミコトの妹ってことね。太陽、山、海の最強属性を持った神様だよ」
愛吹姫様の解説を聞いて、気を良くした蘭姫様。
「愛吹ちん、ほんとうか? 最強属性って、最強。無敵ってことだぞ」
私は頭を抱えて情けなさのあまり素に戻ってしまった。
「どうして、こんな風に育ててしまったのだろう? 私は豊玉姫様に会わせる顔がないわ」
「叔父さん、その調子で、かしこまらず今までどおりでお願いします。俺は大和、愛吹は愛吹で、蘭は?」
「私は、無敵の姫だぞ」
「蘭のままでお願いします」
私と常緑の背中に厄病神がついているような気がした。




