5 アマビエ
釣りは、とにかく場所。
ポイントで結果の八割が決まると言っても過言ではない。
釣れる魚は魔魚だが、このポイントは素晴らしいと言うしかない。
しかしだ、これを釣りと言うには俺はかなりの抵抗がある。
「釣れれば何でもいいと言うわけでもないんだよな」
釣りは、大自然相手の推理ゲームだと俺は思う。
置かれたこの状況では、魚は何処に集まり、どう動いて、どういう仕掛けに食ってくるという推論を立て、その正しさを立証するという過程にこそ、釣りの面白さがあるというもんだ。
釣れると分かった後で同じことを繰り返すことには、あまり面白さは感じない。
ましてや、不思議な力と魔石を持ち帰るだけの作業。それにしても、何に使うという目的も何も無い、宝の持ち腐れのハンドパワーだ。
モチベーションが上がっても百五十匹も釣れば萎えてしまう。
「普通の釣りにしようかな?」
俺は、しばらく釣りをやめてぼーっとしていた。
「釣れすぎても面白くないとはのぅ。厄介じゃの。」
そんな声が聞こえた気がした。
「こっちじゃ、こっち!」
声のする側の船縁を見る。
二十歳くらいにしか見えない、ジト目の美女が海から顔を出していた。
「わー!なんだ!海坊主?」
俺は腰が砕けてへたり込む。
「失礼極まり無いのう」
「他に言いようがあるではあろうに。人間は我をその様に思っておるのであろうかの? ならば、断固として改善を要求する。」
水面に顔を出した美女は、矢継ぎ早にそう言うと船縁に腕をかけて、俺を睨む。
「人魚か? 魔物か? なんなんだお前は!」
「真っこと、失礼じゃのう。我が名はアマビエと言う、こう見えても海に住む神の端くれじゃ」
「マジでぇ〜? 神様ぁ〜?」
「まだ疑うかの?最近、不思議な事が多かったじゃろうに。」
「異世界の魔魚が釣れたり、変なハンドパワーが出るようになったのは、お前のせいかよ!」
「実に物の言い方を知らぬ奴じゃのう。食ってしまうぞ」
アマビエと言う神だと名乗ったジト目の美女は、しらっと恐ろしい事を言う。
「門を開いてやった時に、そなたは釣らせて欲しいと願っておったであろうが。」
「あっ!」そう言えば、そんな事を言った様な気がする。
「じゃ、ホントに神様なの?」
「そうだと言うておろうに、よっこらしょっと」
アマビエは、船縁からデッキに上がって来た。
濡れていることもあり、艶のある長い銀髪。半人半魚。人魚と言うには尾びれが三つに分かれていて、胸から下の部分は水着を着ている様に、虹色の鱗になっているが、肌の部分は、透き通るように白い。
薄い唇が少し尖ってイケズ美人という顔立ちで、上半身だけ見ているとドキリとする。
イヤ、下半身を見ても別の意味でドキリとするんだけど。
「海から出ると、心地が悪いのぅ」
ポン! っと下半身が、普通の女性の足に変わり、鱗がミニスカートのようになって、さながらスパンコールのワンピースを着たような形でアグラをかいている。
イヤ、ボートの上でその格好ってありえねーし、ボンドガールかなんかですか?
アマビエは、妖怪というのが一般的な扱いですが、この話しでは、神様という事にさせてください。
まぁ、本人がそう言ってますので。
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