49 実母
「あぁ、我が子、大和命よ」
えっ? 何言ってんの?
俺は、突然目の前に現れた同年代の神様に私が母だと言われ、「ハイ、そうですか」と言う人がいるのなら会ってみたい。
「あぁ、いつの間にか立派になって、お父上そっくりです。愛吹姫と蘭姫は息災にしていますか? ヤサカニノマガタマを手に入れたのですね?」
と無言の俺に、矢継ぎ早の質問。蘭姫は蘭かぁ? 愛吹姫? 誰だ? 愛…吹く…愛吹かぁ~!
やさかにのまがたま? さっぱり、判らん!
俺と愛吹を育ててくれた両親は、実は実の親ではないことを俺も愛吹ももう知っている。愛吹も俺もそれぞれ十八歳のときに両親から告げられた。俺と愛吹は高貴な人たちの子供で、両親は、乳母と乳母夫なのだと。実父はもう亡くなったが、実母は健在だと、事情があって会わせることは出来ないが、俺達をとても愛しているらしい。
更に、俺と愛吹は、本当の兄妹だが蘭の紅毛家は、実は赤の他人だ。でも親戚の叔父叔母としてそして俺達と同じ境遇の従姉妹として、何かの時には必ず助けてくれるから頼れとも言われている。
これを聞いたときは、俺も愛吹も大変だったのだが、それは置いといて、今は目の前の母と名乗る女性だ。
「いや、二十七年ほおっておかれて、突然母親だと言われても、どう答えていいのか」
「そうですよね。あなたの言うとおりです」
よよよよよ~
と母らしい女性は、着物の袖を顔に当て泣き崩れる。
「いや、否定をしているわけではないですよ。ただ、あまりにも突然のことで、何をどうして、どう理解してよいか判らないんです」
この数ヶ月、アマビエに会い、いろいろと神がらみの不思議なことを体験して、こういう事にかなり耐性が出来ているので俺は意外と平静だった。
神魚、神力、神石、神さまと出てきて、実母が神さまだったと言われてもそれほど驚かないというか、あぁ、だからこうなったのか。と返ってそのほうが話しの辻褄が合う気もする。
って! 母親が神さまだってことは、俺も愛吹も神さまだってことなのか?
ここまで思考して、衝撃の事実に気づく。
俺がぁ? しょぼい神さまだよなぁ~。
「そうです。あなたの秀真名は、瀬戸浦島大和命、愛吹姫は瀬織島愛吹姫です」
アマビエと同じように、神さまの母は言葉にせずとも考えが読めるようだ。
「では、あなたの名前は?」
「私の名は、瀬織津、お父上は邇芸速日です、乙姫と浦島太郎と言ったほうが、あなたには馴染みがあるかも知れませんね」
「す、すみません。重大発表なので愛吹も呼んできていいですか?」
「私も会いたいです」
「ちょっと待って下さい」
「愛吹~! 愛吹~! 大変だ、ちょっと来い!」
「えー、何よお兄ちゃん、そんな大騒ぎして」
愛吹が俺の部屋にやって来る。
「えっ? なになに? 誰? この女性?」
「母さんだって」
「アイブキヒメ、大きくなりましたね」
「えっ! えぇ~!!!」
光が急速に弱くなり始めた。やばい、充電切れか?
「もしもし…もしも~し…!!だめだ、電波飛んでないわ」
通信が切れてしまった。見ると赤かったタコ神石が青色になっている。
「お兄ちゃん、なに、いまの?」
「ヤサカニノマガタマって言ったかな? タコから出てきた赤い神石がそれだったみたいだ」
「お兄ちゃん、それって確か三種の神器の一つじゃない?」
「えぇ! そうなの? タコから出てくるのか? 有難みがないなぁ」
「それより、アレが本当のお母さんなの?」
「そうらしいんだ。ちょっと待てよ神力注いで通信復活させるから」
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私事ですが、今日はこれから日本海にケンサキイカを釣りに行きます。
ケンサキイカの沖漬けが食べたいんです。




