46 アマビエレンズ
「タイラバやってるのに、まだ誰も鯛が釣れてないよね」
「そうだな、これは本当に鯛を釣る道具なのか?」
蘭が笑いながら言う。
魚探にはかなり良い反応が出ている。水深四十メートル、底から二十五メートルくらいまで、魚が群れを作っている。これが真鯛なら必ず食ってくるだろうという反応のはずだ。
「船頭の腕が悪いから、鯛の魚映が見つけられていないのかもね」
蘭の竿先にココンとアタリが出た。間をあけてコココ、コン、グーンと竿先が揺れる。待望の鯛っぽいな。
「来たぞ、大ちゃん! これは鯛かなぁ~」
「うん、多分鯛だろうな。慎重に行けよ」
「タイ来たぁ~」
暫くリールを巻くと、突然竿先の撓みが無くなる。釣り人は手ごたえが無くなったので、バラしたのかと不安になる。食い上げというが、魚が上に向かって浮かび始めたからだ、本当にバラしたのであれば、この後もずーっと手ごたえが無くなる。タイラバは実際に結構バラシも多い釣りなので、船に揚げるまでは安心出来ない。蘭の竿先は、再び水中に向かって振動を始めた。
「大丈夫、大丈夫。まだちゃんとかかってるから」
「一瞬、不安になったぞ~」
蘭に笑顔が戻る。
網を持って待ち構えていると、水面下に魚が見えてきた。三十センチっていうところか、思ったより少し小さいが、蘭にとっては神魚以外では初めてのタイだ。
「綺麗だなぁ~」
水揚げしたばかりの鯛は、綺麗なピンクに所々青い班点が見える。死ぬと消えてしまうのだが、釣り人しか知らない釣ったばかりの魚の美しさに蘭もうっとりしていた。
「大ちゃん、写真撮ってくれ」
「いいぞ、スマホを貸せ」
フィッシュグリップで鯛を持ってピースサインをした蘭の傍に、愛吹とアマビエも入るが、ほんとだ、スマホの画面には、アマビエは写っておらずまるで居ないかのように後ろが透けている。神力の無い人には、こんな風に見えているのか。せっかくポーズ取ったのに、ちょっとかわいそうだな。
「次は、大ちゃんとだ」
愛吹にスマホを渡し、蘭とポーズを取る。俺とのツーショット写真なんて欲しいのかな? 鯛もいるから、正確にはツーショットではないけれど。
「私も釣るわ!」
愛吹が闘志を燃やしている。意外に負けず嫌いなところがあるから、なんだか変なスイッチが入ったかも知れない。
俺は、愛吹の竿先を見ながら、アマビエの写真を撮ってやる方法はないかな? と考えていた。
神水目薬を使うと見えなかった厄病魔が見えたんだから、アマビエも似たようなものかな?だとしたら、神水越しに写真を撮ったら写るかも知れない。
俺はフロロカーボンのリーダーが入っていた透明なプラスチック製の箱を空け、底を救急箱の絆創膏で密封して、中に神水を詰めてみた、四角いレンズのようになった、これ越しでカメラで撮ったら写らないかなぁ~
こっそり、アマビエを盗撮してみる。おぉ~、変なハレーションを起こしているけど写ったじゃん。次は、このアマビエレンズで撮ってやろう。
「あっ、釣れたかも」
愛吹の竿にアタリが来た。先ほどの蘭と同じような感じ。よしよし、負けず嫌いさんにも、ちゃんと来ましたか。ほどなく、蘭のと同じようなサイズの真鯛が上がってきた。サイズの大小も無くて、良かったじゃん。
三人一緒に写真を撮って。「もう一枚ね」と先ほどのアマビエレンズ越しでも撮影。
「さっき、蘭のときアマビエが写ってなかったから、その鯛を蘭にも持たせてやって」
捏造写真も忘れず作った。アマビエに見せてやると、パーッと嬉しそうな顔になる。多分、自分の写真を見るのは初めてなんだろうな。
「じゃ、次はお兄ちゃんと」
愛吹が、鯛を持って腕を組んでくる。
「えー、じゃぁ私も腕を組んだ写真が欲しいぞ」
お兄ちゃん、ちょっともてた気がして嬉しいんですけど。
一応、毎朝6時に更新です。




