45 タイラバ
さすがはアマビエが出した酒。翌朝、誰も二日酔いになることもなく、四人ともすっきりと目覚めた。
いい天気だぁ~、じゃぁ、今日も釣りに行くか。
蘭はともかく、愛吹は二日連続はないかと思いきや、やる気になっている。
「じゃぁ、今日は鯛を釣るかぁ~、蘭はせっかく神石タイラバ作っても、まだ、まともにタイラバをやったことがないだろう?」
「さすが、大ちゃん。私の心を良く理解しているな」
「じゃぁ、最初から三人ともタイラバな」
「どうやったらいいの?」
「これを底まで落として、ゆっくりと巻くだけだ。魚のアタリがあっても、引いても、同じ調子で巻けばいいんだ。簡単だろ?」
「バカ神様、何色のネクタイがいいと思う?」
ネクタイというのは、金属の塊のヘッドの後ろにつけるゴム製のヒラヒラのことだ。普通、タイラバは金属のヘッドの後ろにスカートと呼ぶ細いカラフルなゴム糸を束ねたものと、このネクタイをセットにして使う。鍼はこのネクタイの付け根に付いていて、ヘッドは通しになっていて糸の上下を自由に動くがスカート、ネクタイ、鍼は末端に固定されている。
更に、コンディションがタフな場合は、これにアシストフックやら、トレーラーというゴム製のルアーを追加し、更にフォーミュラーというスプレーで匂いまでつける。
こうして段々皆がこれぞ関西人というほど、豪勢な飾りつけになってくると、かえってスカートなし、ネクタイのみのシンプルな仕掛けの方が食いが良くなったりして、最近の俺はこのシンプル仕掛けを主に使用している。
ヘッドは勿論、金属製の餌となる魚の頭で、スカートは形状のはっきりしない怪しいもの、こういう形が変化するものは魚の好奇心を煽るらしい。ネクタイはたぶん、逃げる魚の尾びれやら、タイラバ全体が巻き起こす後方の波動を表現したもので、この色や形は大切な要素の一つであり、天気や時間帯などでヒットする確立が明らかに変わる。
勿論、水上と水中では目が識別する色も変わるが、そもそも人間と魚では目の構造も識別できる色も違う。
水中で暮らすアマビエに、この色についてご教授願いたい。
「そうじゃの、我は朝のうちはボーっとした方が好きかのう」
なるほど、そういう貴重な意見だから、朝一は、はっきりしないピンクグレーのような色でスカート付きでやってみるか。特にこれが正解というものではない、こればかりはトライアンドエラーで、消去法的に試していく他ないのだ。
「蘭はいきなり神石タイラバでやってみるか?」
「そうだな、初めてで分からないから師匠の言うとおりでやってみるぞ」
「愛吹は、定番のケイムラオレンジとグレーの組み合わせかな。これでやってみて」
蘭と俺は、ピンクグレーとグレーのネクタイで始めてみる。
「魚映は、底にしか居なさそうだから十回巻いたら、また底に沈めてを繰り返して」
チャプン
三人が黙々と巻いては沈めを繰り返す。
「あっ」
愛吹の竿に反応があった。
「そのまま同じ調子で巻いて」
上がってきたのは、大きくて緑色に蝶のように模様があり羽根を思わせる胸鰭のある赤い魚だった。ホウボウだ。
「綺麗」
「そうだな、これ刺身で食うと旨いんだよ、お食い染めに使う魚で、この胸鰭の付け根に短い脚があって海底を歩くんだ」
「へぇ~、変わった魚だなぁ~」
「おっと! 私も何か来たぞ」
今度は蘭だ。結構走っているから、青物系なんだろな。
「おぉ、カンパチの子供のシオじゃないか! これも旨いぞ」
「へへん! 円転滑脱だ」
蘭、お前は得意なときにその言葉を使うのか? この残念美女めぇ。意味がわからん。
「おっ! ナブラだ!」
小魚が他の魚に水面まで追い詰められ、跳ね上がる様子をナブラという、それが、船の直ぐ近くで起こった。俺はタイラバのまんま、軽く投げてみる。
「おっ! なんか食った。走るぞ~、これも青物か?」
上がったのは、小さなシイラだった。
「シイラかぁ~、これはリリースだな」
「お兄ちゃん、また変なの釣った。なんか気持ち悪~い」
「ハワイではマヒマヒって言って食べようによっては美味しいらしいぞ」
リリースしたシイラは元気に泳いでいった。




