41 オクトパッシング3
「このペンダントの神石を身につけて、竿で切るイメージで振ってみたんだ」
「そしたら、飛ぶ斬撃が出るのかぁ~、かっこいいなぁ~。まぁ、そんな感じでいいんじゃないか」
愛吹はドン引きしている。蘭は弱みを見つけたとばかりに、ファスナーを開けたまま、胸を隠そうともしない。アマビエは、やたらと嬉しそうだ。
「コホン…俺も釣ろうっと」
船をまた、もとの場所に移動して、俺はタコ釣り用の仕掛けをそのまま落としてみた。
トン、トン、トン
トン、トン、トン
「おっ!」
トン、トン
「そりゃ~!」
ズン!
「大ちゃん、来たか?」
「来たのは、来たけど、重すぎて上がらねぇ・・」
重い、先ほどの二キロなど比じゃないほど重い。
常世の海のタコ釣りなど、やめときゃ良かったと、直ぐに後悔した。この海の魚は半端ないんだった。
「ふんぬ! ぬぉぉ!」
とにかく、今の少し浮いた状態で、ドラグを思いっきりしめて少しづつリールを巻く。ラインが切れても仕方ないや、それよりも竿が折れるかも。
竿の限界を確かめるように、そーっと竿を立てる、ゆっくりと竿を寝かせながらリールを巻く。
少し上がった、それを繰り返し沈んだタイヤを釣り上げるように、やっと六十メートルを巻き取った。
アマビエに網を入れてもらい、二人いや、蘭も入れてほぼ三人がかりで船に引きづり上げた。
真ダコだ、とてつもなくでかい。何キロなのかは分からないけど、猫よりは大きく、頭の丸いところだけでバスケットボールほどの大きさはある。
「うぎゃー、化け物だぁ~!」
「そなた、とんでもないのう!」
「怖い! 怖い! 怖いぃ~」
船の上は、女子達の悲鳴で大騒ぎだ。水ダコだと記録には三百キロ近い、全長九メートルという中型バスほどもあるものがいたという話だから、それに比べるとかなり小さい方だけど、真ダコだとデカイ。
しかも、虹色にヌメヌメと光っている。ほんと、どう見ても地球外生命体だ。
それでも、そこは安心の神魚、大騒ぎを他所に、コロンっと神石に変わった。神石が赤い。タコだから?
いつもの神石とはちょっと形が違う、まん丸ではなく、オタマジャクシのように、へんな突起のような尻尾のような物が付いている。勾玉? そうだ勾玉に形は近い。きっとまた何か特別なことが出来そうな気がする。
「もう、お兄ちゃん、変なもの釣らないでよ」
「悪かった、もう俺もタコは釣らん。めっちゃ怖かったなぁ~」
「少し、ちびったぞ」
「蘭、また下ネタかよ」
「冗談に決まっているだろ」
釣りをするからには、大物を釣りたいと願うものだが、度を過ぎると怖いな。水蛸を相手にする漁師さん達は勇者だと思う。
「愛吹も蘭も、もう少し釣りたいだろ?」
「なんだか、怖くなってきた」
「私は釣りたいぞ~」
「蘭は釣りたがっているから、愛吹ももうちょっと釣ってみろよ。もう俺は、船の操船に専念するから」
愛吹はおっかなびっくり、蘭はやる気満々で再開した。面白いことに、アマビエが愛吹にくっついて、なにやら教えている。アマビエが釣りをするのは、見たことないけどなぁ~
「そうじゃ、そうじゃ妹君。そなたは、ここに竿を置いたままでそのリールとやらを操作しておれば良いのじゃ。釣れれば、我が取り込んでやろう」
「ありがとう、アマビエさんは、優しいのね」
「そうじゃ、我は可愛い娘には、優しいのじゃ」
アマビエが、怒ったのを見たことないけどな。アマビエも一人でずーっと瀬戸内海の番をしていたんだろうから、気兼ねなく神臭を宿した三人がいる場所にいるのは、きっと嬉しいんじゃないかな?と思う。
かく言う俺も、妹や蘭には明け透けに話せるが、他の人と話すのは気構えてしまって、疲れるから苦手だ。
若い女子達が俺の船で仲良く和気藹々としている風景を見るのは、船長冥利に尽きるというものだ。
「大ちゃん、まるで親父じゃのう」
俺の心を読んだアマビエが、そう突っ込む。
「へっへっへ、お嬢さんたち、可愛いのう」
「変態が全開だな」
三人にジト目で睨まれた。




