39 オクトパッシング1
エギでイカを釣ればエギング
ルアーでメバルを釣ればメバリング
アジを釣ればアジング
チヌ(黒鯛)を釣ればチニング
タコを釣ればオクトパッシング
なんでもイングを付ければお洒落な釣りに聞こえる。
「愛吹、タコ釣りに行くか? これからがシーズンなんだ」
「うーん、どうしようかな?」
「神力が使えるかどうか気になってるんだろ? ついでに神魚も釣りに行けばいいじゃんか。トイレも使えるようになったし、小学生でも出来る簡単な釣りだから」
「そうだな、行ってみようかな」
次の休みは、久しぶりに愛吹が船に乗ることになった。実は船を買って直ぐに、愛吹は喜んで乗ったのだが、ひどい船酔いになりあれっきり乗りたいとは言わなくなった。
神力が船酔いに効くかどうかは分からないが、暮羽の眩暈にも効いたくらいだから、船酔いにも効果があるかも知れない。
「聞いてないぞ!」
いや、そうだろ。今、初めて言ったのだから。
そう言って、メールをしたら直ぐに駆けつけて来たのは蘭だ。走ってきたのか、ほのかに上気して汗をかいている。
「いや、そんなに慌てて来なくても…」
「愛吹ちんも行くのだろう? じゃ、私が行かないでどうする?」
「お前は、愛吹の保護者か彼氏か!」
「愛吹ちんは、私の保護対象だからな」
「いや、何から保護してるんだよ」
「それで、どんな道具を揃えれば良いのかな?」
買いに行く気満々だ。今、売出し中の釣りガールだもんな。
「わかった、わかった。今から、一緒に行ってやるよ」
「好きだぞ、大ちゃん!」
「はいはい」
ーーーーー
「おー! 釣れたぞ~!」
一番竿は蘭だった。なんだか軟体物に強い女だ。愛吹は乗船前に酔い止め薬を神水で飲んで、なんとか酔わずにいるようだ。
「ぬぉ! ひっつくぞ、大ちゃん!」
「そりゃ、蛸だからな。その洗濯網の袋に入れとけば大丈夫だ」
「ぬぉ! ぬぉぬぉ! 歩いてるぞ~! 寄るな!」
蘭は蛸と格闘している。
「蘭、タコって脳が九つ心臓が三つあるって知ってるか?」
「知らないぞ~、こいつは本当に地球の生き物なのか?」
「あっ! 重くなった」
「そのまま、一気に巻き上げろ」
愛吹も釣れたようで、せっせとリールを巻いている。
「きゃー、ほんとタコだぁ~! 墨吐かない?」
「まぁ、イカほどは」
「ひっついたぁ~!」
イモ、タコ、ナンキンと女性の好物に見事にランクインしているタコだが、釣っても賑やかなことだ。
「今日も、大ちゃんは別の女と楽しそうじゃの」
アマビエの声だ、アマビエが姿を見せたということは、愛吹も神臭がしているのだろう。
「人聞きの悪いことを言うな、妹だ。愛吹~、アマビエが来たぞ。」
「そうかの。ほう妹君かの、どれ、よっこらしょ」
「はじめまして」
「はじめましてじゃの」
話には聞いているが、愛吹は初めてのアマビエだ。やっぱり緊張するよな。デッキに上がってきたアマビエに、俺の後ろに隠れるように挨拶をした。
「アマビエちん、今日はタコ釣ってんだぞ」
蘭は三度目なので、もうかなり馴染んでいる。って、アマビエにもチン付けか? 一応、バカでも神さまなんだけどな。
「そうそう、我は神だと言うことを忘れてはならぬぞ、アレは持って来たかの?」
「クリームパンだろ? いつものところに入ってるぞ。安い神様だよな」
「ほう、また新たな言われようだの」
安い神様と言われ、満更でも無い顔でクリームパンに一直線に行く。ほんと犬みたいだな。
「ほう、妹君もなかなかの神臭じゃの。大ちゃんと、どっこいどっこいじゃぞ」
「えぇ、そうなの? お兄ちゃんと一緒って、親父臭いってこと?」
「そうだ、愛吹、怒れ」
(イヤ、これは俺が愛吹に怒るところか?)
「神さま相手に怒れはしないけど、ショック~」
(やっぱり、怒るところだった)
「むほほほ、神臭が濃いということは、神の血が濃いということじゃ、兄妹じゃから当然といえば当然じゃの」




