36 龍
「龍って言った? あの髭の生えた蛇みたいなやつ?」
俺はアマビエに再確認する。
「そうじゃ、常世の海には、結構居るらしいぞ。今、繋いでおる常世の海はこの瀬戸内と同じ内海の浅い海じゃから、大きくてもそなたの倍程度じゃと思うが、外界の深いところには、天を覆おうほどの者も居ると聞くのう」
「俺の倍って、三メートル超えるじゃん。そりゃ釣れるわけないよな」
「そんな凄いのがかかっていたのか?」
蘭も驚く。
「海の神、水の神は龍神じゃからの、神と名が付いても未だ神ではないがの、神になる可能性のあるものじゃ。そなたが姿を知っておるということは、この世界にも、何かの裂け目から龍が来たことがあるのかも知れぬのう」
「それは、消えてなくならないのか?」
「裂け目と門は違うでのう、黄泉の者もこの世界で残っておろう?」
「私は、龍を釣ってみたいぞ」
「いや無理だろ。例え耐えられる釣り道具で挑んだとしても、船ごとひっくり返りそうな気がするぞ、常世の海に引っ張り込まれちゃうんじゃないか? そして神魚みたく消えるかも」
「うぅぅ~」
こればかりは、蘭がいくら向う見ずでもダメだと思う。しかし龍ねぇ~、そんなヤバイ奴もかかるんだなぁ。
・・・・・・
結構、いい時間になったので、アマビエは海に帰って行き、帰港して帰路についた。さてアオリイカとコウイカを料理せねば。
「蘭、神石は何個出た?」
「八個かな? 面白かったぞ~、結局十三魚種だ」
「タイラバに加工したい分だけ、俺が穴を開けてやるよ」
「それは嬉しいな。優しい大ちゃんは好きだぞ」
「いや、だから、そういうの要らないから」
「じゃ、三個お願いするぞ」
「分かった、加工しておく。神力は自分で注げよ。気分悪くなったら、やめてまた翌日に注げばいいから」
「わかった。気分悪くなったら止めるんだな」
「今日も、うちで食うか?」
「いや、今日は家で食べる。イカも両親に見せて自慢したいからな」
「そうか、じゃぁ、家の前で降ろすよ」
「今日は、ありがとう」
イカは普通は、アニサキスがいる可能性があるため、一晩以上冷凍してから刺身は食べるのだが、今は神力がある、アニサキスがいても神力をかければ死ぬはずだ。なので、今夜は卵黄イカだ。
イカそうめんにして、卵黄を乗せ、醤油を垂らしてかき混ぜて食う。うまい! このために、アオリイカを釣ってきたのだ。
コウイカは天ぷらに、イカのゲソとエンペラーは、バター胡椒で炒めて、一品。
そしてイカ肝。アルミホイルに肝を乗せて、胡椒をかけバターを乗せて、オーブントースターで焼く。何故か蟹味噌の味がする。
「うまいなぁ~!」
「ほんと、イカって美味しいよね」
イカが大きいので、半分は冷凍にしたが、それでも愛吹と二人なら余るほどだった。
ちなみにイカには元気になるタウリンが百グラムあたり七百ミリグラム含まれているそうで、これだけイカを食べれば神力なしでも、めっちゃ元気になること間違いなしだ。
「暮羽さんだけど、あの後、元気になって退院できたらしいの。お兄ちゃんのお陰だって喜んでたよ」
「そうか、それは良かったな」
「お医者さんも、なぜ元気になったのかは分からないけど、現状の数値と病状を観て入院の必要はないって言ったらしいの」
「じゃ、直ぐに仕事に復帰か?」
「いや、二週間、実家で様子をみて大丈夫そうなら、京都に戻るって言ってた」
「一ヶ月ほど仕事に穴を開けちゃったんだな。アニメの仕事でそれがどういうことか、俺には分からないけど、暮羽が戻るって言ってるのなら、たぶん大丈夫なんだろうな」
ゆっくり出来るのなら、しばらくゆっくりして、気持ちも体もリフレッシュして復帰すればいいと俺は思った。
それにしても、龍かぁ~。イカを食べて元気になるのだから、きっと龍なんて食べたら、凄いことになるんだろうな。暮羽の病気なんて、一切れで治っちゃうんじゃないだろうか。




