35 神臭
コツがつかめたようで、蘭は繰り返しサビキで釣っている。
「七種類目~」
毎回、ほぼ全部の鍼に魚がかかるので、何種類釣れるかというチャレンジをすることにしたようだ。神石もポロポロ出ている。
「なぁ、アマビエ、この間、神水を目に入れてみたんだ。そしたら短い時間だけれど、お前の言ってた厄病魔が見えるようになった」
「そうかの、我は常に見えておるが、あれらは我の見える範囲には、ほとんど寄ってこないでの」
「神力の強さってヤツなのかな」
「あまり近づくと浄化されておるのかも知れんのう」
寄り付いただけで、消されるって流石は腐っても神だな。
「我は腐ってはおらぬぞ、饐えた匂いなど、せぬであろう? 匂ってみよ」
いや、言葉通りに受け止められても困るのだが、アマビエはなんとなく魚臭そうな気がして、傍で香りを嗅いでみたことはないのだが、本人がそういうので、ちょっと匂ってみる。
クンクン
意外や意外。木のような香りがする。材木屋さんで嗅ぐ香りというか、そういう香りに近い。
「ほんとだ、悪くない」
「これが神臭というものだ、そなたも蘭もこれの淡い香りがしておる」
「神の住む場所は、大体こういう香りがしておるものじゃろ?」
「そう言われればそうだ、神社や霊山などは大きな森やご神木が生えてることが多いから、俺はてっきり森の木の香りだと思っていたよ」
「間違いではないがの、神の香りでもある。そもそも木自体も神に近い物であるでの、長く生きた木は神力も宿しておる」
「それで森に入ると癒されるのか」
「まぁ、そうかも知れんのう」
「でもそれなら、森には厄病魔なんていないんじゃないのか?」
「そうじゃの、弱いのは森には居れずに街をうろついておろうが、木やその場所の神が持つ神力と対等であるか、それ以上のものは森の中でも平気だから、居ないわけではないぞ、むしろ強いのが居る」
「神は退治してくれないのか」
「そういう魔物も神も中つ国においては、似たような存在じゃから、人となんらかの契約をするとか自分に関わるとか以外は、特にお互いは干渉せぬ。干渉すれば、どちらかが消えるでのう」
「じゃぁ、お前は瀬戸内海で何をしてるんだよ?」
新たな疑問である。そうだとしたら、神は何のためにこの世界にいるんだろう。
「もっともな疑問じゃのう。我ら地上の神は、基本的に高天原や常世には出入りが許されぬ。まぁ言えば監視係と中つ国の保全じゃの、不測の出来事が起こった場合には、門を通って報告に行くがの」
「じゃから、常世の魚を釣る程度ならば誰も文句は言わぬが、そなたが常世に行こうとすれば、我はそれを阻止せねばならぬかも知れぬ。まぁ、楽な役目じゃぞ」
まぁ、俺が神魚を釣っているのは、隣から延びてきた柿の実を採っている程度のことらしい。法律的には採ってはダメなんだそうだが、常世側はそんな細かいことは言わないようだ。
「大ちゃん! 大きいのが来たぞ!」
話し込んで忘れていた。蘭の竿が大きくしなっている。っと、駆けつける前に竿のしなりがなくなった。切られたか?
上げてみると、七本鉤の下五本が見事に切られていた。何がかかったのだろう?
「ふーむ、龍でもかかったのかのう?」
「龍?! 龍って言った? 常世の海は龍も釣れるの?」




