29 暮羽の病室1
「大和・・・なんだか、情けないことになっちゃった」
愛吹から入ってもいいよと合図を貰い、病室で二年ぶりに再会した暮羽は病気のせいだろう、付き合っていたころと比べるとかなり痩せていた。愛吹は、俺と入れ替わりに席を外して談話室で待っていてくれている。
暮羽とは高校時代に知り合った。俺と同じ美術部の後輩で、高校生の時はそんな感情はなかった。俺が大学の工学部に進み、暮羽が高校三年のとき、滋賀県で開催された美術展で偶然再会した。この展覧会の同じ画家が好きだったということで意気投合し、それがきっかけで付き合うことになった。
大学を卒業し、俺は産業機械を設計製作する会社に就職した。暮羽との関係はその後も続き将来を約束しあっていたのだが、二年前に、話しあった結果、お互いにまだやりたいことがあるという理由で、別れた。俺は結婚資金をつぎ込んで中古の船を買った。周りからは俺が、ヤケをおこした様に見えたみたいだ。
別の好きな人が出来たとか、嫌いになったとかそういう理由で別れたわけではない。自分でも何度も自問自答したが、付き合って二~三年目に結婚に踏み切れなかったことが、この結果を生んだんじゃないだろうか。
「突然、ぐるぐる世の中が回るような眩暈で立てなくなってね、いろいろ検査してもらったのだけど、理由がわからないらしいの。検査でかえって調子が悪くなったくらい」
「何の前触れもなく、突然だったのか」
「先生はメニエール病って三半規管に水ぶくれが出来る病気だろうって、散々検査してもらったのだけど、それではないって結果だけでね。めまいの起こる原因も判らないって。ずっと吐き気がするものだから、食べることも困難になって、しばらく入院することになったの」
「それは、難儀だなぁ~。大丈夫なのか?」
「入院していれば、点滴をしてもらえるから、今日みたいに発作がおさまっているときは、何の問題もないんだけどね」
「暮羽、点滴している方の手をだしてみて」
「どうしたの?」
俺は暮羽のか細い左腕を手にとる。点滴を繰り返したことで、肘の内側に青黒いしみができて、針跡が痛々しい。
手のひらで覆うようにして神力を通す。俺の手をどけると、点滴痕は綺麗に消えていた。
「えっ? 何がどうなったの、綺麗になってる」
「反対の腕は大丈夫か? じゃ、次は俺に背中を向けて」
「大和、なんか怪しい超能力者みたいね」
半信半疑意で口ではそういうものの、腕の点滴痕が一瞬で治ったのを見た後なので、素直にベッドの上で身体を回して背中を向ける。
二人一緒の写真を撮るたび何度も抱いた細い肩、綺麗な髪の毛、それに隠れる細いうなじ。あぁ、暮羽の背中だと、なんとなく久しぶりに実家をみたときのような懐かしさが蘇ってくる。
頭から順番に、首、肩、背中とおへその裏のあたりまで神力を注いでいく。
「えー、すっごく楽になった、何をしたの?」
「信じてもらえないだろうけど、こういう力を最近手にいれたんだ」




