28 神水目薬
「暮羽のことは、その後なんかわかったか?」
蘭が帰ったあと、洗い物をしている愛吹の後ろで座ってビールを飲みながら俺は聞いた。
「うん、昨日、お見舞いに行ってきたの」
「いろいろ検査してるみたいだけど、今のところ原因不明なんだって。眩暈がひどくて食事もできず立てなくなるらしいの」
「そりゃ、可愛そうだな」
「メニエール病って言ったかな? お医者さんは、それを疑って検査したらしいけど、違うって。死んだりする心配はないらしいのだけど、治療の方法が見つからないらしいの」
「今度、神水を持って行ってあげてもいいかな?」
うん、普通の水として飲む分には何も問題ないと思うから、秘密にしたいけど、ちゃんと暮羽に説明して内緒にしてもらうんだぞ。
「オカルトな話しだけど、アマビエが言うには、病気を持ってくる魔物がいるんだそうだ。神力を持っていると、それを遠ざけるんだって」
「ほんとオカルト話しよね。確かに神水は効果があるけど、そこまでは、私はまだ、ちょっと信じられないなぁ~」
「俺も、そうだ。明日一緒に行くか。」
「そうだね。神水のことは、お兄ちゃんから直接言ったほうが良いかも、じゃ私が神水を持って行くから病院でね」
お風呂に浸かって、考える。魔物とかそういう超常的なものでも見えるとか臭うとか五感で判れば、説得力もあるんだけどな。
神水を目に差すとか、鼻を洗うとかそういうので見えるようにならないものかな? ふと思う。
目に差すか。やったこと無かったな。
洗面器に神水を出し、顔をつけて目を開いてみる。
顔を出して、見渡すが特に変わったことは…いや待てよ、よく見ると壁や天井、特に天井に多いが紫色の薄い点のようなものが、チラチラと見える。
そして自分の手は、白く光って、お風呂の下水口のところは、べったりと紫の影になったように見える。
テレビで見る刑事物ドラマのルミノール反応の写真の明暗を逆にしたような、洗面器の神水をそこに捨ててみたら、水のかかった範囲の紫が薄くなった。
これって、神水で殺せる細菌かなんかが見えているのかな? これはいけるかも知れない。
神水目薬。
これは新たな発見だ。
顕微鏡を最初に作った人が誰かは知らないが、それに匹敵するかも。
さっそく家にあった目薬の中身を捨てて、神水に入れ替えて、翌日持って仕事に行った。
電車の中で差してみると、あちこちに紫の点が見え、一部の人は紫の影を帯びたように見える。たぶん、紫の人は健康状態のあまり良くない人か、何かに取り憑かれた人なんだろう。
目薬の効果はあまり長くない、二分かそこいらのことだ。
職場では見えなかったが、街には、人の形をした紫の影のようなものが、ポツポツといる。
俺の周りにはいないのだけど。あれが厄病魔とかいう奴らなのかも知れない。
そのまま、花屋で花を買って、暮羽が入院しているという病院に足を向けた。
いきなり行っても大丈夫だろうか・・・
「久しぶり・・・」
愛吹と病院の入口で落ち合い、先に愛吹から暮羽に伝えてもらって俺は二年ぶりに、暮羽に会った。




