27 キス天パーティ
「愛吹レモンバーム採ってきてくれ」
釣魚料理には、山椒や大葉などのハーブ類がどうしても欲しくなる。ちょっとだけだが、買うと高い。
なので我が家では、小さなハーブ園を作っている。
パクチー、大葉、パセリ、バジル、レモンバーム、ミント など、山椒やスダチなども植えている。
そのうち生姜にも挑戦してみようと思っている。
大葉よりもレモンバームの天ぷらが俺のお気に入りだ。
蘭は、一度、母親にキスを渡してから、もう一度やってくると言って帰った。
二十匹あまりのキスをチマチマと裁いていく。
うろこを取り、頭を落とし腸を取って背中から包丁を入れる。
ついでに大きめのを選んで数匹を刺身にとる。
大鯛一匹を裁くほうが随分楽なのだが、神力があるので、背中が張ると、癒せば良いと思ったものの、背中に手が届かない。早く、蘭、来ないかな。
こうなると、やはり愛吹にも神魚を釣らせておきたいところだが、神臭があるのかどうか、俺では判らない。
天ぷら粉の説明を読む、粉百グラムに対して水百六十ミリリットル。百五十ミリリットルでは、ふっくら、百七十ではさっくり・・・・て十ミリリットルでそんなに食感が変わるのかよ。
何度も失敗したので、料理はこの分量が大切なことをよく知っている。いい格好をして、板前気取りで目分量でやるとろくな結果が出た試しがない。
「ごめん、遅くなった。沢山あったから、お母さんがびっくりしてたぞ」
蘭がやってきた。
「蘭、頼む、とりあえず、俺の背中を癒してくれ、手が届かないんだ」
「大ちゃん、もうキス全部裁いたのか? ご苦労さん、いいぞ」
蘭が背中に手を当ててくれる。
「はう!」
それを見て愛吹が驚く。
「蘭、神力が使えるようになったの?」
「そうなのだ、アマビエさんが私には神臭があるって」
「そうなんだ、ひょっとすると俺達の一族はみんな神力が使えるようになるかも知れないぞ」
「どうなんだろ?」
愛吹は自分の腕のにおいを嗅いでみている。
「違いない気がするけどな~」
俺は、愛吹と蘭の頭のあたりをクンクンと変わるがわりに嗅いでみる。よい匂いがする。
「お前がするなぁ~!」
二人から同時に突っ込まれた。
天ぷらを揚げ始める。
「愛吹、冷蔵庫のビールを出して。揚げたてをどんどんいけよ~」
抹茶と塩を混ぜた抹茶塩をつけて食べる。
「うまいなぁ~」
二人はテーブルに座って飲みながら、俺は天ぷらを揚げながらのキス天パーティーだ。
「神魚釣りは面白いぞ~、びっくりするほど大きなのが、ルアーで釣れるんだぞ」
と蘭が愛吹に語り始める。
「底に落として巻くだけなのだが、グングン! ゴンゴン! のギュイーンだ!」
身振り手振りで語っているが、俺には蘭のボキャブラリーの無さばかりが伝わってくる。
「愛吹も行くかぁ~? トイレはなんとか使えるようにしてみるよ」
「なんだ大ちゃん、私には、紙おむつで来いと言ったくせに」
「俺は言ってねぇよ! お前が自分で言ったんじゃないか!」
「扱いが違うぞ~!」
 




