26 厄病魔
蘭は引き続き、釣りをしている。
「アマビエ、ちょっと教えて欲しいことがあるんだけど」
「なんじゃ?」
「俺の神力や神水って、どの程度の病気まで治せるんだ?」
「そなたの神力は、既にその辺の祈祷師など及びもつかないほどになっておるぞ」
「そうなのか? いや、俺が聞きたいのは、どういう病気なら効果があるのかってことなんだけど」
「うーむ、我は病気にどんな種類があるのかは知らぬからのう。流行病ならば、そもそもうつして回っておるのが、厄病魔だからの、奴らを寄せ付けなければ、病はうつらぬ」
アマビエは目面しく俺と正面から向き合う。
「その厄病魔ってのは、なんだ?」
「黄泉の国の魔物の一種じゃよ」
「黄泉の国って本当にあるのかよ?」
「そうじゃの、この世界は、天の神の住む『高天原』と、海の神の住む『常世の国』、地上の人間や土地神の住む『葦原の中つ国』、そして死人の住む『黄泉の国』がある」
「中つ国に大きな天変地異などがあると、裂け目が出来ての、そこから厄病魔などの良からぬ者が湧き出てくると言われておる」
「こやつらは、人の不安や不満を食い物にしておるでの、病気を次から次へと、人にうつして回るのじゃ」
なるほど、クラスターの運び屋かよ。
「心配せずとも、そなたは神力を宿しておるでの、あやつらや他の黄泉の魔物は近寄れぬ。さらに、神力には、治癒する力があるので、寄生虫のような病原なら殺してしまうし、身体の状態をリセットして毒などの異物の混入や傷などの構造上の異常なら治るであろうの」
「但し、自分自信から出た病には効かぬ」
「癌や白血病、リウマチのような病気のことだな?」
「そんな難しい病名までは、知らぬ」
でも、免疫系が原因といわれる花粉症には効いたけどな。そうか、異物の混入とリセット機能のせいか。
「ありがとう。良くわかったよ。バカだと思ってたけど、真面目に話すと頭いいんだな、お前」
「それは、もしかして誉めておるのかの?」
アマビエが喜んでいる、その証拠に、いけず口の口元が緩んでいる。
「おう、めっちゃ誉めてるぞ!」
「誉めろ、誉めろ。もっと誉めろ。誉め称えろ!」
「よーし、よしよし」
アマビエの頭をなでてやった。
嬉しそうに、目を細めている。
本当に犬みたいなやつだ。
「大ちゃん、釣れたぞ!」
忘れていた、蘭の竿がしなっている。
「なんだか判らないが、さっきより強いヒキだぞ」
ドラグが出まくっている。何だろう?鯛ではなさそうだな。
「慎重にいけよ蘭! なんだかデカそうだぞ」
「わかった・・けど、重い!」
「竿をゆっくり立てて、巻きながら下げる、それを繰る返すんだ、船の底に行くようなら、ゆっくり場所を移動しろ」
二~三十分かかったろうか、ようやく見えてきた。
何だ? 何者だ?
網に入れ掬い上げたその魚は、大きな瘤が頭の前面にあり、つぶらな瞳をした不思議な魚だった。
「コブダイだ~! すげえ、五十センチ超えてるぞ」
へにゃ~、消えたのを見て、また蘭は座りこんだ。
「大変だったぞ」
変わった魚を釣ったなぁ~




