23 修羅場
「神力って言った?」
「言ったぞ。その手から出たのシンリョクだろ?」
「なんでお前が知ってんだ? 愛吹か?」
「愛吹ちんが、どうかしたのか? うちのお母さんだよ。子供の時から良く痛いのを治してくれたんだ。チチンプイプイシンリョク〜 ってね」
「…」
「大ちゃんがさっきやってくれた、あの熱くなる感じは、お母さんのと同じだったぞ」
どういうことだろう?
紅毛家では、普通に神力を使っているってことなのか?
それとも、蘭は神力って言葉を、ただのおまじないだと思っているのか?
「んで、お母さんのも効果あるのか?」
俺はちょっと、カマをかけてみることにする。
「イヤ、そう言われると、なんとなく熱くなる気がするけど、ただのおまじないだ」
やっぱりそうか、ちょっとびっくりした。俺の知らない間に、神力が常識になってるのかと思ったじゃんか。
「で、俺のは効果あったのか?」
「あったぞ、もう痛く無いからな」
「そうか。神力はなぁ〜、好きな人からかけて貰うと効果があるんだよ」
「ウザッ! 大ちゃん、オヤジだぞ。だから暮羽さんに嫌われるんだ」
「暮羽って、今度は間違いなく愛吹だな。愛吹めぇ〜!」
なんとか、うまく誤魔化せたみたいだ。
「じゃあ、キス釣り再開しよっか」
先ほどまでと同じ要領で、キス釣りを再開する。流石に、もうハオコゼが釣れても蘭も触る事はなくなり、ペンチで外してリリースしている。確かに、釣りガールとして見込みアリかもな。
やはり、別の人間が同船しているので、今日はアマビエは姿を見せない。
ホッとする。出てきたら、面倒だもんな。
「これはまた、邪険にされたものじゃのう」
ギクッ! そう思った途端に、アマビエの声。
俺は頭を抱えた。
いきなり海に顔を出したアマビエを見て、声も出ない蘭。腰が抜けたのではないだろうか。
「今日は俺だけじゃ無いのに、なんで現れるんだよ!」
「出てきてもらっては、困るのかのう?」
「ら、蘭! こいつはアマビエって言うんだ。化け物じゃないから、一応、神さまだから」
蘭は腰を抜かしたついでに、竿を海に落としてしまった。
「アマビエ〜! お前が突然、現れるからだ。拾ってこい!」
「ハイハイ、そなたは、全く神使いが荒いのう」
アマビエは、軽く文句を言っただけで、直ぐに落ちた竿を追って潜って行った」
「落ち着け! 蘭。害はないから」
「なんなの? アレは?」
「言った通り、海の神さまだ。二ヶ月ほど前に友達になった。って、無理あるよなぁ〜」
俺は頭をかく。
「いいか良く聞いてくれ。少し前に肺炎が流行ったとき、疫病を退散させるって妖怪がネットで流行っただろう? あの妖怪が、今のアマビエだ。本人は神さまだと言ってるから、神さまなんだろう」
「ほんとうに、いたの?」
「そうだ、だからこの後、この船に乗ってくるだろうけど、大切にしてやってくれ」
「驚いたが、だいぶ落ち着いてきたぞ」
確かに、いつもの言葉使いに戻りつつある。
「それと、アマビエの事は俺と愛吹以外には誰にも話さないでくれ。頼む」
なんとか嫁と愛人が鉢合わせしたような修羅場感は、拭えそうな感じになってきた。
「わかった。無理言って船に乗せてもらったのは、私だから、船の上では大ちゃんの言うことは聞くぞ」
そう言われて、俺は蘭の度胸の良さに感心した。
「そろそろ良いかのう?」
と海の中で竿を持ったアマビエが言う。




