21 蘭
「大ちゃん! いつ船に乗せてくれるんだ?」
今日は、従姉妹で愛吹と同級生の『紅毛蘭』が遊びに来ている。
俺をこう呼ぶのは、コイツだけだ。
目鼻立ちが整った、ちょっと宝塚を思い起こさせるような、凛としたところがある美人だが、押しが強いので、俺はちょっと面倒くさい。
家が近く家族同士も仲が良いので、昔から良く家に遊びに来ている。しょっちゅう泊まるので、風呂のドアを開けたら下着姿の蘭がいたとか、時々美味しい思いもあるが、もう一人の妹のようなもので、後でボロクソに言われるから、そういうのには、あまり遭遇したくない。
ずっと剣道をやってきたとかで、本人曰く剣の達人なんだそうだ。ほんとかな?
最近、釣りガールとしてデビューしたそうで、何度も船に乗せて欲しいとせがまれているが、まだ一度も乗せた事がない。
「なんで乗せてくれないんだぁ〜」
「嫌だよ。女が乗ると釣れないもの」
「アンタは、大間の漁師か!」
「ほんとのところ、俺の船、小さいから、トイレを使えるようにするには船倉の道具を全部片付ける必要があって、めっちゃ大変なんだ。お前、海の真ん中で船縁にお尻出してするとか出来ないだろ?」
「それくらいは、周りに人がいなければ多分、問題無いぞ!」
「数メートルのところに俺がいるんじゃんか」
「何だ? 大ちゃんは、それを見たいのか? ヘンタイだな。」
「わけ、ないだろ!」
「いいぞ、大ちゃんなら別に見られても、もう何度も見られてるからな」
「人聞きの悪いこと言うな!」
「どうせ、私の乙女の純情はもう帰って来ないからな」
「オバハンかぁ!」
「大丈夫だ。大ちゃんがそんなに気にするのなら、私は紙おむつをして行くから」
「マジで言ってるのか?」
「そうだぞ、釣りガールの中には、そうしている人もいるそうだぞ」
「夢を壊すような事、言うなぁ〜!
「で、今まで何を釣った事があるんだ?」
「私か? 結構釣ったぞ。ハゼだろ、コアジにイワシ、サヨリとそうだ、カサゴも釣ったぞ〜」
「お前それ釣りガールとは言わないだろ? ファミリーフィッシングじゃないか」
それを聞いて、ちょっと可哀想になってきた。
「分かった分かった。キス釣りなら連れて行ってやるよ」
「ほんとうか? ほんとうだな? 嘘ついたら、釣り針千本飲ますぞ」
「イヤ、それ曲がってるし、カエシが付いてるし、絶対、取れないだろ!」
「でも、お前ゴカイとか触れるんだろうな?」
「大丈夫だもん!」
「『もん』って、何を今更かわい子ぶっている、いいか、絶対つけてやらないから、餌は自分でつけろ」
蘭は連れて行くと約束した事で、やたらと上機嫌になった。少々不安はあるが、まぁ、アマビエも別の人間が乗っていると、寄り付いて来ないだろう。
ほんとうに、蘭は、紙おむつで来るのかな? ちょっと想像したら、自分が凄く穢れた人間のように思えてきた。
想像するのは、やめておこう。