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2 異世界

 魚の消え方は、何かに似ていると思った。

 そうだ、ファンタジーで勇者が魔物を退治した時のアレっぽい。

「まさかねぇ〜、ありえねぇだろ」

 誰もいない海の真ん中で、このあまりにシュールすぎる出来事に俺は一人で苦笑いしていた。


 釣った魚が、光りの屑になって消えるって、どう考えても説明がつかない。

 陸に戻ったら、異世界だったなんて話しだったりして。

 俺の独り言は、尚も続く。


「いや〜、確かにさっきまで、まだ手が震えるような大物とやりとりしてたんだよなぁ〜」

「さっきのところ、気持ち悪いけど、もう一度釣ってみるか」

 デッドスローを使っていても、船はやりとりの間にかなり流されている。

 この為のナビだ。GPSを使ってマーカーを打った先ほどの場所に戻る。


 再び、鯛ラバをフォールさせる。

 また、水深五十メートル、何かが食った。

 今度は横に走る。先ほどのように鉛直に引き込むのではなく、左右に走る青物系の魚のようだ。

ハマチまではいかないけど、ツバスか何かかな?

 取り込んだのは、やはりツバスっぽい虹色に光る魚。

「これも消えるのか?」

 やはり、光りの屑のようになって消えた。


 これで確定した。

「間違いなく、この世界の魚では無いよなぁ。ファンタジーなら、魔物いや、魔魚とでもいうヤツなんだろうな」

 さて、そうなるとここが、今までの世界なのか、それともどこか違う世界にやって来たのかと言う事だ。

 まさかの異世界召喚?


「あー、いて!」

 肩と腕がはってパンパンだ。

 右手を左肩にやる。

「アヒ!」

 肩が熱くなりハリがすーっと抜けた。

「なんだ?肩に何か付いていたのか?」

 今度は、反対の手で右肩を揉んでみる。

「おほ!」

「これ、手のひらから、なんか出てるぞ」


 遠赤外線というか、そんな様なわけのわからないものが、手のひらから出て肩のコリを癒したような感じだ。

 試しに右手で左腕をさすってみる。

 摩っただけで、すーっと左腕のハリが抜けていく。


「えぇ? 魔法?」

 消えた魚の延長で、短絡的にそう思った。魔法というよりは、ひと昔前に流行った気功に近い感じはするのだが。ますます異世界感が濃くなってきた。


 とにかく、今日はもう戻ろう。

 実は、かなりビビっていた。

 このまま戻ろうとしたら、太平洋みたいな大きな海の真ん中にいたとか、陸に着いたら、中世のヨーロッパで貴族とかがいたらどうしようとか。

 不思議な出来事が続いたために、妄想が膨らみ始める。

 周りに見える島はいつもの通りだが、本当にいつもの通りなのか?


 しばらく船を走らせると、やっと他の遊漁船がチラホラ見え始め、異世界妄想は、次第に薄くなってくる。

 俺の船を停泊しているマリーナのある本土が見えて来た。


 いつものマリーナだ、ほっと胸を撫で下ろす。近くに駐車した俺の中古のミニクーパーも見える。

「よかったぁ〜、マイ世界じゃん」

 船を片付け、釣り道具を車に詰め替え結果的にはボウズと言う事で車を発進させた。

「まぁ、釣る事は釣ったしな、ボウズだけど」

 いつも帰りに寄るコンビニに立ち寄る。

「いらっしゃいませ」

 コンビニ店員の日本語が、まるで外国から帰って来た時のように安心できる。


 コンビニコーヒーを飲みながら、もう一度、何が起こったのか考え直してみる。

一つの仮説を立ててみる。

 あの海域のあの水深に異世界につながるゲートのようなものがあって、異世界の魚を引っ張り出してしまったのではないか?

 魚を釣っても退治したことになって、それで魔法じみたものが使えるようになったのか?


 ゲームのようにスキルボードでも出てくれば、わかりやすいんだけどな。

 ひょっとすると、もっと数を釣れば、スキルアップしていくかも知れない。

もし異世界に行って戻ってこられたら、郵便ポストや信号機を見ても、きっと涙が出るほどの嬉しさと安心感があるでしょうね。

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