18 アジバート
俺は散々アマビエに悪態をつき、それが返って変態アマビエを喜ばせる事になると気付いて、罵るのはやめた。
さて、神魚釣ろうっと。
今日は、アジが釣れている。
このアジを、生きたまま異世界、常世の海に送り込んでやったらどうなるのだろう?
普通の飲ませ釣りとしての、釣り餌になりうるのか、それとも神魚と同じように消えてしまうのか?
「ヨシヨシ、アジよ。俺が今からお前を異世界に召喚してやるからな。立派に勤めを果たすのだぞ」
アメリカの宇宙ロケット開発時に、ロケットに乗って飛んで行ったアカゲザルは、『アルバート二世』と言ったらしい。
「アジ、お前には、『アジバート』の称号を授けよう。」
俺がアジと話しながらセッティングしていると、アマビエは、初めて会った時のように、アホを見るようなジト目で見ていた。
ふん、バカ神に言われたく無いわ!
アジバートの背中を鍼に通し、錘の重さで落とす。
水深五十メートルを超えて、竿に伝わる振動でアジバートが元気に泳いでいるのが分かる。
「常世の海でも、アジは元気に泳いでいるぞ。生きたまま門を通過出来るって事なのか?」
アマビエに聞く。
「前にも言ったが、常世の海の門は、そなたでしか開かぬ。」
「その魚は今、そなたと繋がっておるから、門を通る事が出来たのじゃ。神魚も然り、そなたと繋がる事でこちらに来る事が可能じゃ。ここいらや、門の向こうを泳いでいる魚も水も、そなたと繋がっておらねば、門を通ることは出来ぬ」
なるほどね。これが世にいうチート能力っていうやつですかぁ〜
ちょっとアマビエに感謝する。
ビンビンビン!
アジバートの動きが激しくなった、近くに大物が迫って来たのかも知れない。
いきなりのことだった。
ゴーン! と竿ごと持って行かれそうなアタリ!
「でかした! アジバート!」
ギューンとラインが走る。ビンビンに張ったラインが横風を受けてビーっと音が出る。
「このアタリは、アイツだろう! 今まで釣れなかった方がむしろ不思議だったんだよ!」
「あのような小魚でも釣れるものかの?」
アマビエは、また嬉しそうに船縁から、海の中を覗いている。
「アマビエちん、ちょっと前に行くから、そこどいて!」
「そうか、それはすまぬ」
アマビエに船縁を空けてもらい、俺は船の先端に移動する。
アタリは強烈だが、ブリほどの戦闘力はない。しっかりと鍼がかりしたようで、アジバートは外れてしまったか、呑まれてしまったか。
いつもの大物のと同じく、引き出され巻き取りを繰り返し、それでもかなり魚が走ったので、真下ではなく、船から少し距離を置いた場所で魚が浮き上がって来た。
最後の抵抗で、魚が水上にジャンプする。エラ洗いだ。まだそんな力が残っていたのかと、俺は、称賛する思いを抱きながら、本能的に竿先を水中に突っ込んで、鍼が外れないように応じる。
やっぱりスズキだ。八十センチは超えてるな。
頼む前にアマビエは、タモ網を持って構えてくれている。
網に入った。二人で取り込む。
「いゃ〜、神さま、いい仕事してくれるねぇ〜」
「ふん、たわいもないことよ」
口では、そう言っているが、褒められてめっちゃ嬉しそうじゃん、イケズ口の口元が緩んでいるぞ。
これ、食えたら美味いだろうなぁ〜
と思っている間に、虹色のスズキは消えた。
生きたアジに鍼をつけて、生き餌として使う釣りを『飲ませ釣り』とか、『泳がせ釣り』とか言います。
他にも、錘だけ付いた仕掛けを底まで落とし、そのラインに生きたアジを鍼がけして、後から滑らせるエレベーター釣りや、鍼の付いていないアジの尻尾を、ラインの先端に結びつけ泳がせてイカに食べさせてから、ヤエンと言う特殊な鍼を滑らせて引っ掛ける、野猿釣りなどもあります。
アジは丈夫で、岩礁などに潜り難いために泳がせるには絶好の餌ですが、活かしておくのに苦労します。
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