14 神ケイムラ
俺は物置からドリルを持ち出してきた。神石でもうひとつやってみたいのが、神石を使った釣り具作りだ。持っている感じでは、神石は石というよりは金属に近い、一番近い材料で言えば鉛だな。カッターナイフで傷を付けると簡単に付き、削る事も出来るし、削りカスを金槌で潰す事も出来る。だから、ドリルで穴を開ける事も出来るだろうと思うのだ。
万力で固定してドリルで穴を開ける。うん、サクッと貫通。ヤスリで穴の周りを丁寧に仕上げたら、タイラバのヘッドの形になった。
外形は、そのままでやってみる事にする。
塗装をするよりは、神力を送り込んで色を変えた方が簡単だし、ひょっとしたら、蛍光のように光の届きにくい場所で特殊な発色をするかも知れない。
俺はこれを『神ケイムラ』と名付けることにした。
ケイムラというのは、最近釣り具の塗装で重宝されている、特殊な蛍光塗料の事で、光の届きにくい深場で、かろうじて届く紫外線に反応して光る塗料の事だ。
ケイムラだから、蛍光紫? とりあえず一番神力の低い青色で良いかな?
釣れなければ、神力を追加して徐々に色を変えて試せばいい。
妖怪アンテナのように、神力を魚が感じて避けるか、バカ食いするか、たぶんどちらかの博打ルアーの完成! 普通の魚は分からないが、神魚の場合は、これよりも神力の強い大物しか食って来ないだろうな。
さぁて、次の休みが楽しみ。
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釣り場に着くと、さっそくアマビエが顔を出して乗り込んできた。
「今日は、あの美味しいクリームパンとやらは無いのかのう?」
「やっぱりそれ目当てかぁ、食意地のはった神様だよなぁ〜、ちゃんとお供え物として買ってきたぞ」
アマビエは勝手にクーラーを開けて、幸せそうにクリームパンを食べている。
こうして見ると可愛いんだけどなぁ〜
「さて」
常世のポイントでは無い、普通の場所で、俺は、まずまずの魚影を見つけた。さっそく神ケイムラのタイラバを付けて落としてみる。
「妙な物を作ったのう」
アマビエは、神ケイムラの神力を感じとってそう言う。
「ひょっとしたら、常世のではない食える魚もバカ釣れしないかと思ってな」
着底。ゆっくり巻き始める。
コツコツコツ…あたりだ。そのまま同じ速度で巻き続ける。
コツコツ、グーン!
ヒットした。タイラバの釣りはこの後も同じペースで巻き続ける。
「おや? もう釣れたのかのう?」
とアマビエも興味深々。
ジジジ〜
魚の引きに耐えられなくなって、ドラグが出る。腕を伸ばし竿と腕でいなしながら、尚も巻き続ける。
またドラグが出る。同じ事を繰り返してやっと魚体が見えて来た。
四十センチちょっとのアコウ(キジハタ)だ。
「これ、美味しいヤツやん」
神魚ではないので、生簀にキープする。
「そのようなものでも、釣れるのじゃのう」
「きっといつも食べてる小魚に見えるんだろうな、神石だと別の何かも出ていないかと、俺はそれに期待しているんだけどね」
「ヘタレじゃと思っておったが、そなたも、なかなかのもんじゃのう」
「バカ神、それって褒めてるつもりかよ?」
次に食ったのは、五十センチくらいのヒラメだった。
「おおぉぉ! 神ケイムラ! 高級魚専用かよ! どうだ、バカ神!」
ケイムラは確かに釣れます。
実際には、タイラバのヘッド(鉛やタングステンの部分)ではなく、その後ろに鍼と一緒につく、スカートやネクタイと呼ばれる、シリコンゴム製の部分にケイムラが使われてます。
ネクタイを次々交換して、その日のヒットカラーや形状を探すのが、タイラバのローテーションですが、ケイムラオレンジなどは、このローテで外せないカラーです。