11 花粉症
はっくしゅん!
愛吹はかなりの花粉症だ。
最近、季節感の無い釣りばかりしているので気づかなかったが、もうその季節になったんだなと思う。
そうだ、俺の作った神水を飲ませたら、少しはマシになるかもしれない。
神水を作れるようになってから、俺は毎日飲んでいるので、身体に支障が無い事は、自分で確かめているが、愛吹にはまだ飲ませた事が無かった。
とは言うものの、何かに混ぜて、こっそりと飲ませるというのも、抵抗がある。やはり愛吹にはちゃんと説明して試させるべきなんだろうな。
「愛吹〜 ちょっといいかぁ〜?」
「くちゅん! なに?」
「ちょっと、見てろよ」
俺は愛吹の目の前で、コップに神水を出してみせる。
「凄っ! お兄ちゃん! どうやったの?めっちゃ凄い手品じゃない」
「いや、これは手品じゃ無くて…、そうだな、これから話す事は他の人には秘密にしてくれよ」
俺は、これまでの一部始終を愛吹に話した。
「お兄ちゃん、小説家になれるよ!」
「違うって、俺はいたって真面目だよ。こんな嘘をついて何の得があるって言うんだよ」
「そんなアマビエだかアマエビだか知らないけどが、異界の門を開いて、お兄ちゃんは神魚を釣って、それで神力を使ったり神水が作れるようになったって言うの?」
愛吹は、完全に疑いの眼差しで俺を見ている。
「そうなんだ、だから、お前の花粉症も良くなるかも知れないから、騙されたと思ってその水を飲んでみてくれ」
「お兄ちゃんキモーい、マジキモーい」
「キモいだろうなぁ〜。分かるけど、頼むから飲んでみてくれ! お願いします飲んでください」
俺は、机に頭をつけてお願いした。
実の妹に興味本意で人体実験を頼んでいるようなものだから、この程度は致し方ない。
「じゃ、ちょっとだけだよ〜、絶対危なくないんでしょうね?」
「それは大丈夫。俺も毎日飲んでるから」
コク…コク。
愛吹はふた口ほど飲んだろうか、目を瞑って自分の身体の状態を確かめるように静かにしている。
ゴクっ! 俺は様子を見守り生唾を飲み込んだ。
いや、水飲ませているだけなのに、変な薬を妹に飲ませている危ない兄のようじゃないか!
「アレ? ホントだ。なんか少し楽になった気がする」
しばらくして、愛吹は、ポツンとそう呟いた。
「アレ? 鼻は通ってるし、目が重いのも無くなった」
「じゃあ、やっぱり花粉症に効いたのかなぁ〜?」
「うん、これホントにすごいかも」
そう言い終わると、愛吹は安心したように、残りの水をゴクゴクと飲み干した。
「俺も、この水がまだ何に効果があるのか良く分からないから、花粉症に効くと良いかもって」
「うん、効いたような気がするよ。しかも即効で」
「アマビエさん、すごいかも」
いや、これを作ったのはアマビエでなくて俺なんですがね。




