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D.G  作者: パステル
第1章 再開
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第三話 訓練

二人の前でかなりゆっくりめに椅子を右に回して自身の姿を見せる会長シエラ。

左肘を椅子の手すりに乗せ、モノ欲しげな表情でキメていた。

銀髪で若干太めのツインテールが特徴的な髪型をしている。二つのリボンは赤と黒のデザインで結構きつめに結っているように見える。

衣装も黒を基調とした奇抜なスタイルでところどころ肌が見えていた。

そんな服装ではあるが一応、彼女の正装である。


「...飽きないですか...?」


「飽きぬっ!」


チコのツッコミになんなく返すシエラ。彼女は椅子から立ち上がり、己もソファーに近づきつつ、向かい側のソファーに座るよう促す。

二人はそそくさとシエラの指示に従って椅子に座る。深くリラックス出来るほど、反発なくソファーは体を包み込む。

彼女も音を立てるぐらいに勢いよく座り込み、テーブルに置かれたカゴの中にある沢山の飴を一つ手に取り、包みを開けて口に含めた。


「んっ...それで話じゃが、今日お前らが行くアルカディアの世界で起こっている注意事項じゃ」


シエラが飴を舐めながら、今回呼び出した理由を簡潔的に述べた。


「注意、ですか?」


ベールがそう聞き返すとシエラは続けて話を進める。


「そうじゃ。ここ最近、青い毛をした狼男がその世界で猛威を奮ってるそうじゃ」


「確かに任務を遂行する上では現世の人間に対応出来るようにするため、姿を生人化させますけど...」


チコが口にした生人化(せいじんか)。文字通り、死者の体を一時的に現世の人にも見えるようにする薬の事である。それを服用することにより、レイスが街中や人出の多く、避難な困難だった場合や逃げそびれてしまった人を救うために対処出来るようにするものだ。

彼女の言葉に頷く様子を見せるシエラ。それだけであればなんら問題は無かった。しかし、


「もちろんそうじゃが、問題は生人化する前に奇襲を受けたということじゃ」


「えっ...?服用する前にですかっ?」


「そうじゃ。つまり奴は死者の魂であるということ。偵察班が奴の正体を探っているところじゃ。万が一遭遇した場合、情報がない状態で戦うのはリスクが伴う。戦闘は控えろ」


彼女の真剣な眼差しに二人は肯定の意を示した。死者の魂を持った狼男...、そういった類のものは一応例はあるが極小数の話、つまりその分、弱点や共通点となりうる情報も極小数ということだ。迂闊に手を出せば返り討ちに会う危険が大きいということ。


「話はそれだけじゃが、とても重要な話であり、その事例があったのもつい昨日の事じゃ。他の死神達にも、今後依頼所の掲示板や受付員達に伝達していくつもりじゃ」


「分かりました。気をつけます」


「まぁ、お主らの事じゃ。やむを得ない理由がない限り、ヘマをするような(タマ)でも無かろう。この話も会長であるが故のしきたりじゃ」


心配などする必要もないと豪語するあたり、シエラも二人の実績に信頼を抱いていた。それに、新米の二人の戦術指南役も請け負っていたのだから。




【死神訓練所前】


1年前、死神になる事を決めて数日が経ったある日の事。二人はあらゆる武術や学術を学ぶため、死神の訓練所を訪れていた。


「チコさん...わ、私に出来るかしら...?」


「無理やり、連れてこさせちゃったよね...ごめんね」


あの時、レベッカの言葉に触発されて死神になる事を決めてしまった事に自分自身に対してはさほど後悔はしていなかったが、彼女の震える姿をあのまま見捨てる事など出来なかったため、励ましつつもベールを同じ死神にさせてしまった。これには流石に強引だったと後悔している。


「いっ、いえっ!私もなりたいと思ってなった訳ですからっ!」


前のセリフと言葉の震えで本当の意志を隠しきれていなかった。死神になることに恐怖を抱いてしまっているようだ。彼女には申し訳ない事をしてしまった。だが、決めてしまった以上、自分から切り離す訳には行かない。

だから守らなきゃ。いざとなったら、この体が朽ちようとも。


訓練所に入り、近くの男性スタッフに自分達の名前と理由を述べると待機室で待つように案内された。しばらくすると自分達の名前がアナウンス越しで呼ばれた。指定された部屋の前には先程のスタッフが立っており、こちらの存在に気付くと体を向けて名前の確認を行った。


「チコさんとベールさんですね」


「はいっ/は、はいっ!」


「中に戦術を指南してくれる先生が待っておられます。女性の方です」


なんだかスタッフの表情に違和感を抱くチコ。その意図は一体なんなのか。ノックを叩き、返事がかえってくるのを確認し、ドアを開けるとそこには幼女(シエラ)がいるではないか。

ゆっくりとドアを閉め、深呼吸するチコ。そして、


「......、何かの間違いでは?」


苦笑いでスタッフに対してそう口にする彼女に彼も不味い顔を浮かべる。


(ガチャッ!!)

「間違いとは何じゃ貴様ぁっ!」


「うわぁっ!!」


彼女の言葉が聞こえていたのか、唐突にドアを開ける様子に慌てふためくチコ。ひとまず室内に連れ込まれ、早速自己紹介を始める。


「わらわはシエラ・ラペズトリー」


「えっ?」


彼女の名前に聞き覚えがあった。レベッカが口にしていた名である。


「死神西南支部会長をしている者だ」


「会長さんっ?!」


彼女も後から驚きの表情を見せた。会長自らが教授する事など、二人は一切想定していなかったからだ。シエラは変わらず真剣な面持ちで死神の存在意義を述べる。


「早速じゃが死神は現世に蔓延る悪霊、レイス共を退治、撃退を主に遂行する者だ。レイスの脅威に恐れぬ心を持つ者を募りたいところじゃが今はそんな事をしている余裕が無い。今回は死神になると望んで来てくれたと聞いている。死神の代表の一人としてとても感謝しておる」


そう言って、シエラは右手を真横に伸ばし、手を開くと手の周りに炎が現れ、瞬時に鎌が現れた。それを見て二人はまた驚いた。


「これはサイス。死神の基本的な武器じゃ。その名の通り形状は鎌に酷似している物じゃ。そして...」


シエラは次に教員机の中から一つのボウガンが現れた。


「これが遠距離用の武器じゃ。これにおいては様々な種類が存在する。後々購入する機会を与えるため、あらかじめどんな物があるのか、見定めておくのじゃ」


そう言ってシエラは自分のボウガンを使って飛び道具の利点や弱点を説明をする。

二人は彼女の言葉に耳を傾け、その身に焼き付けていく。


「そして、近年使用の許可が降りたもう一つの武器を教えよう」


彼女は唐突に目を閉じ、左手を掲げ、深呼吸をする。そして、勢いよく前方へ腕を振り下ろすとその手から炎が噴き出した。二人は驚いて椅子を引いた。


「驚いたか。これは紋章を宿し、魔力を放出させて能力を引き出す、魔法と呼ばれるものじゃ。これに関してはまだ細かな規定が定まってはおらぬが使用は任意で許可している。興味があれば申告しろ」


魔法。チコは思わず心の中で呟いた。ふとある疑問が生まれた。


「シエラ先生...ん?会長?」


質問を投げかける前に呼び方をどうすればいいのか戸惑ってしまった。その反応にシエラも詫びながら答える。


「すまぬな。そこん所、説明するのを忘れておったわ。今後の事もある。指南役ではあるが会長と呼び続ける方が良いじゃろう」


「分かりました。シエラ会長。魔法って相性があるんでしょうか?」


チコの質問にシエラも顎に手をやって悩む顔をした。


「んー...おそらく関係はするじゃろう。わらわもこの魔法を身につける時に、相応しい属性を宿すと紋章士が口にしていたからのぅ」


その答えにチコはおそらく関係性はあるのだろうと勘繰った。回答をしてくれた事に感謝し、一時的な質疑応答はひとまず終わった。

次にシエラは死神の立場について説明を始める。


「続けて死神やそれに関わる事項を簡潔に説明しよう。死神は死界特有の職業であり、先程申した通り、現世に溜まるレイス達を退治、撃退する事が主な仕事だ」


レイスには様々な種類(タイプ)がある。

破壊力が高い【ストレイダー】、鉄壁の異名を持つ【タンカー】、俊敏さに長けた【クイッカー】大まかな分類はこの三つに分けられている。

そこから枝分かれするように様々な融合種が存在する。

たとえば【スピッター】と呼ばれるタイプはクイッカーの一種であり、さまざまな外壁に引っ付きトリッキーな動きを得意とするレイスである。

他にも種類があり、これらを覚える尽くすのもなかなか難しいと感じるチコ。

でも、不思議と心に感じる何かがあった。何かを守るために覚えなければ行けない気がするのだ。ベールを守るため?それだけではないような感覚があった。

では一体なんのために?それも分からない。

かと言って他の職業を考えるよりかはこうしてこの世界に貢献出来そうなこの仕事をする方がいい気もしていた。


レイスの種類についての話を終え、続いて戦闘の座学に入った。基本戦術から応用まで、レイス別の対策などを教えていった。

数日はそういった座学のみを取り行い、ある程度知識を得た上で実際に武器屋へ出向き、自身の鎌と遠距離武器を決めて出世払いとして購入した。その時に初めてシドおじさんとも出会い、今後メンテナンスやカスタマイズの相談で交流を深めていくことになる。

鎌と遠距離用の武器を揃えた二人はその後、一部の時間を実践戦術として模型やバーチャルリアリティ空間でレイスとの戦いを学んでいく。


イメージしていたものよりも敵の動きに翻弄されてしまい、少し戦っただけで息が上がってしまう。


「鎌を持つ際、霊力をコントロールするのじゃ」


シエラがモニター室のマイクで二人にアドバイスを投げる。霊力とは死民全員が持っている能力である。その霊力を利用して死神達は身につけてる腕輪型の召喚機で鎌を生み出している。


「それが不安定じゃと必要な時に鎌が出せなかったり無駄な労力を掛けることになるぞっ!」


目の前にいるのはあくまで練習中の練習の擬似レイス。実戦でこんなヘトヘトな姿を見せたら、もはや格好の的だ。チコは鎌を持ち直し、レイスに真っ向勝負を仕掛ける。

目の前に居るのは純粋なストレイダー。この場合の対処法を彼女なりに試してみる。

ひとまず攻撃を繰り出す。案の定回避をされ、レイスは距離を取る。


「これならっ!」


そう言って右側の腰に備えていた遠距離用の銃イーグルアイを右手に取って、レイスへ狙いを定めて発砲した。弾はかすりではあるが命中し、レイスも少し動揺を見せる。


「っ!今ならっ!」


ベールもその様子を見て鎌で攻撃しようと結構な距離から急接近を試みる。


「ダメッ!その距離じゃぁ!」


彼女とレイスの距離の長さから、チコは不利である事を理解していた。あまりに長すぎる二人の間隔、レイスの回避の方が早いのは目に見えていた。ベールの攻撃はかわされ、レイスは反撃の構えを見せる。裏をかかれた彼女は目を見開きながらレイスの姿を見る。


(ギィンッ!!)


チコの鎌がレイスの鋭い爪を防いでいた。

殺される恐怖に腰を抜かし、座り込んでしまったベール。チコが一声かけると彼女は我を取り戻し、すぐに起き上がって、チコの脇から鎌の曲線を活かした攻撃をレイスに繰り出す。

見事に刃はレイスに刺さり、白銀の成分でレイスは塵と化していく。

ベールは鎌の刃を地面に付かせたまま疲れ切った様子を見せる。チコも鎌を消して膝と手を地につけ、荒目の呼吸をする。

背景は元の真っ白な空間に変わり、バーチャルリアリティの世界から戻ってきた二人。

モニター室に繋がるドアからシエラが入ってきて二人の元へ歩み寄る。


「初戦にしては素晴らしい動きじゃったぞ。さぁ、今日はこれで終わりじゃ」


腰に手を当てつつそういうシエラに二人はゆっくり一礼し、訓練所の一室から出ようとした時、シエラが二人を呼び止める。


「そうじゃ。おぬしら、今日は暇かのぅ?」


「えっ。は、はい」


「良ければこの後、付き合わぬか?」


まさかの会長からのお誘いに断る訳には行かなかった。すぐに二人は了承し、訓練所を出る準備を整え、シエラに連れられてとある店を訪れることになった。

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