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第27小節目:透明人間

「小沼、いるー……?」


 ノックのぬしはドアを開いてから、


「うわ、何このハーレムな状況……」


 とほおをひきつらせる。


「いや、なんか、すまん……」


 謝罪の声を述べた先には、浴衣を着た吾妻さんが立っていた。


 あれ、浴衣って吾妻みたいな体型の人には似合わないというようなことを聞いたことがあるけどこれはどういうことかしら……?(反語)


「あれー、ゆり、どうしたのぉー? ていうか、身体は大丈夫ぅ? 今日もお風呂で倒れてたけどぉ……」


 英里奈さんがほわわんとたずねる。え、吾妻ねえさん今日も倒れたの? 


「あ、いや、大丈夫、ちょっと小沼に用があって来たんだけど……」


「「よ、呼び出し」!?」


 市川と沙子が大声を上げた。やっぱりだんだんお二人息が合って来たよね。


「えーと、うん、まあそうだね……。え、amane様、パジャマ着てる……バリかわいか……」


「あまねさまぁ……?」


 ああ、英里奈さんはその呼び方聞くの初めてか。そして吾妻はなんかそのエセ博多弁みたいなの博多の人に怒られるとよ?(同上)


「え、えーっと、でも、ホタル池は、今先約があるよ!?」


「そうそう、健次が使ってる」


 市川と沙子が畳み掛ける。いや、そんな簡単にはざまを売るなよ。


「あー、うんー、そうなんだあ……」


 ちょっと吾妻ねえさん、パジャ川のパジャマ姿にぽわーっとし過ぎだから……。鼻血垂れそうな勢いじゃないですか……。


「ゆりぃー……大丈夫ぅ?」


 英里奈さんが心配そうな顔で吾妻の顔の前で手を振る。悪魔さん、たまに優しいとこあるよね。


「はっ、だ、大丈夫! ……ていうかあいつホタル池行ってんの!?」


 ほらー、さこっしゅ、今日二回目のミスだわ。吾妻が部長の使命感に目覚めちゃったじゃん。ねえさんはそういうのちゃんとしてるんだから……。


「誰と!? あたしも見に行こうかな!?」


 ええ、そっち!?


 吾妻の表情を見ると、大きな瞳をキラッキラに光らせている。青春大好きっ子の何かがうずくんですね……。


「え、じゃあえりなも見に行こうかなぁ」


 いや、やめときなよ、つらいだけだよ、何その無駄なチャレンジ精神……。


「……えっと、小沼くんに用があるんじゃなかったっけ?」


 市川が軌道修正をはかる。えらいぞパジャ川。


「あ、うん、そうだった。小沼、今、大丈夫……?」


「ま、まあ、大丈夫だけど……」


「じゃ、じゃあ、ちょっとそこまで一緒に来て……?」


 いじらしげに言う吾妻の表情にドキッとしてしまう。


 と、その時。


「わ、私も付いていこうか!?」


 市川が何かに焦ったようにいきなり参加を申し出る。


「うちも行くよ」


 沙子さんまでどうしたん?


「やっぱり天音ちゃんはゆりをマークしてるんだねぇ……」


 英里奈さんは意味ありげに笑っている。


「えーっと……」


 吾妻は少しばかり逡巡しゅんじゅんしたような仕草を見せた後。


「小沼と、2人に……して?」


 照れくさそうにいう。


 あんぐりと口を開けた2人と、ニヤニヤ顔の悪魔が1人。


「お、おう……」


 なに、おれ、告白とかされるの……? いきなり?




 ということで、お風呂の前のソファのところまで連れてこられた。 


「……あのさ、小沼」


「は、はい?」


 妙に照れくさそうな吾妻の表情におれも下手くそな反応を返す。ダサい。


「あの、さっきのことなんだけど」


「さ、さっきのこと……?」


 と、とぼけてみたが無駄である、話の流れ的に肝試しのことでしかありえないし、吾妻ねえさんはスキル《読心術どくしんじゅつ》の使い手である。


「もー、分かっているくせに……」


 これだよ! ヒロインが使うとこうなるんだよ! 見たか大友くん! ……あれ、吾妻ねえさんってヒロイン枠でしたっけ?


「あ、ああ、き、肝試しな」


「うん、そう、あのさ……」


 少しだけいいよどんでから、


「あの時のことは、忘れて!」


 深々と頭を下げられる。その瞬間にふわーっとお風呂上がりのいい匂いがした気がするけど気にしないのだ。


「えーっと、どうして……?」


「どうしてって、あんなの、恥ずかしすぎるし、天音とさこはすに顔向け出来ないじゃん……」


 か、顔向け……?


「いや、でも、小沼は覚えておいてって……」


 そう伝えると。


「むううううー……!!」


 吾妻が顔を赤くして上目遣いでおれをにらんでくる。これだよ! ヒロインが使うとこうなるんだよ! あれ、吾妻ねえさんってヒロイン枠でしたっけ?


「それを忘れろっつってんの!」


「そんなこと言われても……」


「なに? 忘れられないっての?」


「そうなあ……」


 あんな表情見せられて忘れられるやつの方がおかしいだろ……。


「もう……、弱音よわねとか、あんなとこ、普段誰にも見せないのに、あたし、どうかしてる……なんで、小沼相手だと調子狂うんだろう……」


 そんなこと言われても、知らんけども……。


 おれも頭の上にハテナを浮かべていると、吾妻はおれの後ろ側を見て、一瞬、ハッとした顔になる。


「どうした……?」


「はあ、まったく、もう……」


 吾妻は少し呆れたようにふう、と息を吐いてから、少しニヤッと笑う。


「……?」


「ねえー、小沼あ?」


「はい……?」


 また、いきなり肝試しの時の吾妻みたいになってるし……。


「あたし、小沼のことさ、実はずーっとね、こう思ってるんだよねえー……」


「あ、うん……?」


 なんだか色っぽい視線をおれに浴びせながら、そーっと、唇をおれのみみみみみ耳元にち、ちちち近づけてくる。浴衣! 浴衣! 胸元! 浴衣!


 なに、なに!?


 そして、そっと、鼓膜をくすぐるようにこしょこしょ声で。




鈍感どんかんすぎだよ、ばーか」




 耳元から離れた吾妻はいたずらな笑顔で。


「は、はえ……?」


 おれが唖然あぜんとしていると、


「ちょ、ちょっと、沙子さん!」


「ちょ、英里奈……」


 おれの背後から、女子の声が聞こえた。


 振り返ると、三人ドミノ倒しの状態で、廊下に倒れていた。



「あれあれ? 3人ともどうしたのー?」


 吾妻はしてやったりという表情を浮かべて。


 3人はバツの悪そうな顔をしていた。


「お、小沼くん、なんて言われたの!?」


「たくとくぅーん、ちょっと急展開すぎない!?」


「ゆりすけ、誰に許可をもらってそんな……」


 まあ、こんなあからさまな盗み聞きに気づかなかったのは、たしかに鈍感だしばかかも知れませんね……。

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