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第45.5小節目:一夏町駅にて

「あれ、沙子っち……と、小沼?」


 バンドの練習を終え、沙子と一緒に帰ってきた一夏町駅の改札を出たところで、元気はつらつなスポーティ系美少女に声をかけられた。


「あ、ひな」


 ひな、と沙子に呼ばれたその人は水沢みずさわひなた。


 おれと沙子の中学校時代の同級生だ。


「おお、久しぶり。小沼君と波須さん」


 水沢のとなりにいつの間にか立っていたメガネをかけた優男やさおとこが声をかけてきた。


「ニシも、久しぶり」


 彼はニシこと西山青葉にしやまあおば


 同じく中学校時代の同級生である。ちなみにニシと呼んでいたのは沙子だけだ。


「小沼君?」


 西山に呼ばれている。やばい、挨拶しないと吾妻ねえさんに怒られるじゃん。


 最近覚えたばかりのスキル《挨拶》を発動する。


「お、おはよう……!」


「いや、もう夜だから!」


 あははーっと水沢に笑われた。そりゃそうだ……。


「小沼君と波須さん、同じ高校なんだっけ?」


「ん」


 いや沙子、返事たった1文字って。


「あ、えっと、武蔵野国際高校。同じ高校。おれと、沙子」


「小沼君、カタコトになってるよ」


 沙子のあいづち不足を補おうと慌てておれが言葉を足すと、西山がくつくつと笑う。


「えーっと、西山と水沢も同じ高校なのか?」


 なんか笑われてて恥ずかしいので、軽く咳払いをして、おれからも質問をした。


「そうだね、僕たちは瀬川せがわ高校。奈良圭吾ならけいごも一緒だよ」


「ああ、奈良くんも……」


 奈良くんは同じく一夏中学校ひとなつちゅうがっこう出身の、この2人よりも全然リア充って感じの人だ。あんま話したことないけど、なんか怖い。理由はリア充だから。


「僕とひなたもそうだけど、小沼君と波須さん、幼稚園時代からの付き合いで、今も一緒にいるんだね。中学の時もずっと一緒だったもんなあ。すごいなあ。幼馴染だね」 


 よく分からんが西山が感心している。


 すると、水沢が横から訂正をいれてきた。


「いやいや、それがずーっと一緒ってわけでもないらしいよー。ねー、小沼?」


「え、あ、はい……」


 おれと沙子の冷戦時代のこと、水沢は知ってるのか?


「沙子っちが去年うちにラインくれたもん! 『拓人と話せなくなっちゃった、死にたい』って!」


「ちょっと、ひな」


 沙子が水沢を慌てて止める。


 そんな相談してたんだ……。


「こないだ『仲直りしたよ』って言った日なんか、沙子っちから絵文字付きのラインもらっちゃったもん! 見たことある? 沙子っちの絵文字」


「ひな!」


 沙子が珍しく大声を出した。顔も赤くなっている。


「あれれ、ごめん、沙子っち」


 そんなに怒られると思わなかったのだろう。水沢が眉を下げて謝る。


「うち、沙子っちと小沼が仲直りしたのがすごく嬉しくってさ。沙子っちにとって小沼がどれだけ大切かっていうのもわかってるつもりだし」


 ていうかこいつ、どんどん墓穴ぼけつ掘るな……。


「ちょっと、ひなた、波須さんも小沼君も顔真っ赤だから……」


 西山が止めに入った。


「あ、あれ? うち、もっといらんこと言っちゃった?」


「そうなあ……」


 西山とおれがあきれる中、


「拓人、」


 沙子がおれのシャツの袖をギュッとつかんだ。


「気にしなくて、いいから」


「お、おお……」


 照れで少しうるんだ瞳に見つめられ、ついドギマギとした返事になってしまう。


「それにしても、ほんと、良かったあ……」


 うるんだ声の方を見やると、水沢が泣いていた。


 ……え?


「なんで泣いてんの!?」


 水沢の感情移入能力が高すぎてやばい。意味わかんねえ。


「うち、友達がいなくなっちゃうのが、一番、怖いからさあ、あんなに仲良かったのに、別々になっちゃったって、聞いたときさあ、めっちゃ苦しいだろうなって、思って……。沙子っちにとっても、小沼にとっても、あんなに苦しいことないじゃんか。それを思ったら、仲直り出来て良かったなあ、って……」


 ぽろぽろとこぼれる涙をぬぐいながら一言ずつ話す水沢に、おれは不覚にも、もらい泣きをしそうになる。ええいああ。


 横を見ると、沙子も照れとは違う理由で瞳をうるませていた。


「……ひなたの友達思いはちょっと重症だからなあ。だって、『友達は、絶対、大切にしなきゃ』が口ぐせだもん。そんな人いないでしょ」


 西山が呆れたように、でも、優しく、そう息をついた。


「……青葉に言われたくないんだけど」


 水沢が少し拗ねたようにつぶやいて西山をにらんだ。西山は気にせず優しく笑っている。


「ひな、ありがとね」


 沙子が水沢の手を握って言った。


「ううん、全然。だって、友達は、絶対、大切にしなきゃ」


「マジで言ってるし」


「あれ、ほんとだ」


 沙子がぷふっと吹き出した。


「なんていうか、よく分かってんだな、お互いのこと」


 今度はおれが感心する番だった。


「まあ、唯一の幼馴染だからね。それくらいは、わかるよ」


 そう西山が言う。


「ん? 沙子っちと小沼だって、幼馴染でしょ?」


「そうなあ……」


 幼馴染って言われるとピンと来ないけど、まあ確かに幼い頃に馴染んでいるとは言えるか。


 沙子は横で、なんだか神妙にコクコクと何度も頷いている。リスかよ。


 何、どうしたの。




「じゃあ、またね」


「またねー!」


 駅から少し歩いたところにあるコンビニの前で、西山・水沢コンビと別れる。


「なあ、沙子。あの2人って付き合ってんの?」


「付き合ってない。友達」


「ほーん」


 そんなもんかねえ。2人で帰ってたしなあ。とか言うと、また英里奈さんに「たくとくんがそれ言うー?」とか言われてしまうんだろうか。


「でも、ひなにとっては、もしかしたら恋人より友達の方が大事なのかも」


「まあ、あの口癖だもんなあ」


 西山の言う通り重症だよなあ……。と、先ほどの光景を思い出して苦笑する。


「ねえ、拓人」


「ん?」


「うちらって、友達だよね」


「えーっと、多分、沙子が嫌じゃなければ、多分」


 ついつい情けない返事をしてしまう自分にあきれる。


 すると、沙子はあごに手をあてて、ふーむ、と考えるそぶりを見せる。


「じゃあ、拓人とゆりすけとは友達」


 沙子が質問してきている(多分)。


「そうだな、友達だな」


 仲良し認定されているのだから、吾妻については友達であると言わない方が失礼だろう。


「英里奈とは」


「えーっと、まあ、友達」


 英里奈さんには友達だとはっきり言われてないけど、相談を受けてるので友達だと言わないと失礼だと市川に言われた。もしくは、共犯者?


「……市川さんとは」


 まっすぐな目で見られて、おれは、答えにきゅうする。


 市川とおれは、なんだ?


「クラスメイトで、バンドメンバーで、友達……かな」


「ふーん……」


 納得できてなさそうな表情で顔をしかめる。


「友達じゃ、嫌かも知んない」


 沙子が0.数ミリ口をとがらせてぽしょりとつぶやく。


「ええ……?」


「さっき、『沙子が嫌じゃなければ』って言ったから」


「え……」


 友達、嫌なんだ……仲直りしたと思ってたけどそういうんじゃないんだ……。


「『友達』じゃなくて、『バンドメンバー』じゃなくて……」


「なに……?」


 おれは意気消沈いきしょうちんですよ……。


 すると、沙子が、


「幼馴染」


 と、そうつぶやいた。


「ん?」


「幼馴染がいい。うちだけだから」


「は?」


 何言ってるのかしらこの子。


 そんなおれを放って、沙子は0.数ミリ口角を上げて、言う。


「拓人と、うちは、幼馴染」


 確認するみたいに。


「幼馴染は、うちだけ、だよね?」


「そうなあ……」

 

 意味はよくわからんが、なんだか沙子が語尾あげちゃうほど上機嫌なので、まあ、よしとするか。


「ね、拓人?」


今回登場した中学生時代の同級生、西山青葉、水沢ひなたがメインの登場人物として出てくる小説「一夏町物語」の連載をはじめました。(https://ncode.syosetu.com/n7696fn/)

宅録ぼっちの執筆前に書いて完結しているものを再構成とリライトをして、分割してアップしています。

もし興味をお持ちいただけたら、そちらも読んでみていただければ嬉しいです!


「宅録ぼっち第二章」執筆、頑張ります。

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2021年10月1日、角川スニーカー文庫より
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― 新着の感想 ―
[一言]  ぽろぽろとこぼれる涙をぬぐいながら一言ずつ話す水沢に、おれは不覚にも、もらい泣きをしそうになる。ええいああ。 正解は「ええ子やなあ」ですかね?ちょっと気になったので誤字報告
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