エピローグ:10年20年
ライブは大歓声の中、終わった。
舞台から降りたフロアでも拍手は鳴り止まず、平良ちゃんが号泣して吾妻に抱きついていたり、英里奈さんが号泣して沙子に抱きついていたり、もうしっちゃかめっちゃかだったが、時が経つのは早いもので、やがて、ライブハウスから撤収する時間になる。
興奮冷めやらぬロック部員たちは近くのサイゼで打ち上げをやろうと言うことになり、クリスマスのサイゼの席取りにはチェリーボーイズが向かってくれた。
そして、ライブハウスの精算を終えたamaneの4人だけがライブハウスに残る。
……と、そこで。
「天音、これ! 誕生日おめでとう!」
そこで吾妻が不意にラッピングされた小包を手渡す。
「わあ、ありがとう! あけてもいい……?」
「もちろん!」
……あー、そっか、今日。クリスマス。クリスマスは、あー……そうね……。
市川さんの誕生日ですね……!
「万年筆?」
「万年筆風のボールペン、ね! かっこいいでしょ?」
「うん!」
うん、でも大丈夫だ。
吾妻は気遣い屋さんだからね。うん。
さこはすは、『あの女』さんのためにまさか——
「市川さん。うちからも」
——おっと?
「沙子さん、天音って呼んでくれて良いんだよ? バカ天音でも」
「うっさい。市バカさん、早く受け取って」
「ひどい……でも、ありがとう! 開けてもいい?」
「勝手にすれば」
市川がその封を開けると。
「これは……小さいマイク?」
「そう。スマホに付けたら、それだけでオーディオインターフェイスとかなくても高音質で動画が撮れるから」
「わざわざ選んでくれたの……!?」
「……うっさい」
市川が沙子に抱きついた。おお、珍しい……。
「なんか、弾き語りを配信するとか言ってたから……。つーか、amaneやるなら……配信しないことにしたんならいらないかもだけど」
「ううん、配信やろうよ! 4人で!」
にこっと言う市川に、沙子は気遣わしげな表情で尋ねる。
「……SNSすることになるよ、いいの」
「うん。それが一番届く方法なら」
市川は微笑む。
「私はそれがamaneの音楽なら、どこで鳴らしたっていい。ライブもやる、SNSもやる、配信もするし、CDも作る。全部やる!欲張り、かな?」
「……いいんじゃないの」
ツンデレさこはすは、それでもうれしそうに0.数ミリ口角をあげる。
うん、良い雰囲気だね!
「えっと……それで……? そこの男子は……?」
吾妻がおれを見る。
「あー、えっと、おれは……」
……それどころじゃなくて忘れてた、とは言えない。
「「嘘でしょ……!?」」
言えなくても伝わってはしまうようで。
「おれは……」
「ねえ、小沼くん? それじゃあさ、」
市川は意地悪をいうように、冗談を言うように。
「小沼くんの曲、私に一つくれないかな?」
あの日の自分の真似をした。
「……いや、違うな」
しかし、おれはそれを真顔で否定する。
「一つじゃなくて、全部やるよ」
本当は、誕生日とか関係ないんだけどな。
もう決めたんだ。
おれはamaneのためだけに曲を作り続けると。
「名義は、小沼拓人で、だけどな」
「…………うん!」
そして、おれはゴーストライターにはならない。
何も隠れ蓑にしないで、自分自身で胸を張って音楽を鳴らし続ける。
剥き出しの自分自身を掲げて前進すると、雨も風もすべて自分自身に降りかかる。
期待すればするほど、上手くいかなかった時に苦しくなる。
転んだらかっこわるい。言い訳もできない。
でも、それでいいんだ。
痛みも傷も避けない。
ここにいたい。それだけが答えだ。
どうせ自分からは逃げられない。
おれはおれの夢からは逃げられないし、おれはおれの大好きなこのバンドからは、逃げられない。
宅録ぼっちのおれがあの天才美少女のゴーストライターになるなんて。
そんなきっかけで始まった、amaneの物語。
Lastを掲げたこのショウを締めくくるのに、最も相応しい常套句で結ぶことにしよう。
つづく
「あ、拓人くん、見て! 昨日アップしたミュージックビデオにこんなコメントついてる」
おれは彼女の差し出すパソコンを覗き込む。
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@四季坊 1日前
amaneの曲を聞いて作曲を始めました。
この曲を、この世界に生んでくれてありがとうございます。
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