第57小節目:恋をしたのは
<作者コメント>
明日お休みいたåだきます。
喜ばしい忙しさなのでご心配は大丈夫なのですが、単純に亀更新ですみません。
どこかで立て直したいと思っております……!
「……分かってるよ、分かってる」
天音は、夕立の降り始めみたいに、ぽつぽつと話し始めた。
「神野先輩が、小沼くんにとって尊敬する先輩で、ヒントをくれる存在だってことも分かってる。私の知らない夜を過ごして、それで生まれた絆が不純なものじゃないってことも分かってる」
おれは、うなずくことすら出来ないまま硬直して、じっと彼女の声を聞いていた。
「沙子さんと重ねた日々が、小沼くんをここまで連れてきたってことも分かってる。長い間一緒に過ごした二人だから鳴らせる音が、amaneの大きな大きな武器だってことも分かってる。……分かってるよ」
息。
「『じゃあ私は、小沼拓人くんに何をあげられるんだろう』」
「そんな、」
「……だなんて、そんなことを言っちゃいけないことも、分かってるよ」
乾いた笑い。
「私だって、amaneのバンドメンバーだもん。バンドの音源がよくなってくよりも嬉しいことなんか、あるはずない。歌う最中にはこんな感情なかったし、歌も誠心誠意歌えたことも、誓って本当。……むしろ、あの曲にはぴったりの感情で歌えたとも思う。ギターも、小沼くんと沙子さんが作ってくれた、本当に素晴らしいリズムに乗って弾くことが出来たし」
でも。
「それでも、ちょっと曇っちゃう気持ちがミュージシャンの私とは別のところにほんの少しだけやっぱりあって、それで……」
冷たくて、熱い声。
「……私は、私の中のそんなところが、たまらなく憎らしい」
震えるため息。
「ねえ、拓人くん」
圧迫される背中。
圧迫される胸元。
切羽詰まった声。
「……こういうことしていいのは、私だけ、だよね?」
5秒の沈黙。
「…………嫌だ」




