表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
290/362

第30小節目:徒然モノクローム


* * *


「知ってるか亜衣里あいりちゃん、『青春』っていう言葉は日本にしかないんだ」


 お姉ちゃんが高校生でわたし(・・・)が小学生の時。


 学園祭の曲決めか何かでうちに遊びに来ていたお姉ちゃんのバンドメンバーのうちの一人が言っていた。


阿賀あが、あんたその話好きだねー」

孝典たかのりは青春に夢見てるからなあ……」


 テーブルの上にはバンド用の楽譜と、コーラやファンタやポッキー。


 みんなに茶化ちゃかされながらも得意げに目を輝かせる彼に、


「……日本語なんだから、そりゃそうなんじゃないの?」


 わたしがそう言うと、そうじゃないんだ、と返ってくる。


 例えば、語源となった中国の『青春』は単純に季節を表す言葉でしかないらしいし、じゃあ英語ならどうだと思って辞書を引いてみると「youth」と出てくる。それは単に「若者」ってことであって、青春とはちょっと違うんだそうだ。


 甘酸あまずっぱいような、むずがゆいような、そういうニュアンスを当たり前みたいにともなって思春期ししゅんきを語る言葉は、『青春』以外にないんだ、ということらしい。


 あの人だって別にすべての言語を調べたわけじゃないだろうし、そもそも本当に中国や英語圏では「青春」とか「youth」という言葉にそういった情感が込められていないかどうかだってネイティブじゃないんだから怪しいものだ。


 今思えば一介いっかいのロマンチストな高校生だった彼は、小さな子供にちょっと何か感心されるようなことを吹き込みたかっただけなんだと思う。


 だけどその目論見もくろみは多分彼が思う数倍成功して、わたしはそれ以来なんとなく「青春」という言葉に興味を持って過ごすようになっていた。


 そのせいもあるかもしれない。


 両親について海外に行ってしばらくしてから、初めて日本の学園もののアニメを見た時、胸がいっぱいになった。


 海外に住んでいるわたしからすると、高校生活の輝きをちょっと過大評価しているというか、あたかも「高校生活が終わったらあとは余生よせいです」とでも言いたげなくらいで首をかしげたりもしたけど。


 だとしても、日本の高校生活っていうのは、青春っていうのは本当にそんなに良いものなんだろうかと興味が湧いた。


 そして去年の今頃、ウチ(・・)はパパとママに頼んでみたのだ。


「ウチ、日本の高校に行きたい」


 反対されるかと思いきや、パパとママは日本の高校で出会ってそのまま結婚したカップルだったもんだから大喜びで、あれよあれよという間に武蔵野むさしの国際こくさい高校への9月生としての入学が決まった。


 想像していたよりは多少地味な制服にそでを通し、入学してから2週間ほど経ったあたりで、ウチは気付く。





 実際の日本の高校生活にあんな輝きはない。



『青春っていうのは本当にそんなに良いものなんだろうか』



 答えは簡単で残酷だった。







 青春なんて嘘っぱちだ。








* * *


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2021年10月1日、角川スニーカー文庫より
『宅録ぼっちのおれが、あの天才美少女のゴーストライターになるなんて。』が発売中です!

購入はこちら!(amazon)
作中曲『わたしのうた』MV
― 新着の感想 ―
[一言] 嘘っぱちって言うか、やけっぱちだったのか。
[一言] こんなところにも阿賀さんに人生を狂わされた女の子が……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ