表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/362

第26小節目:オールドスクール

『間もなく最終下校時刻です。生徒たちは帰宅の準備をして、速やかに校舎から出てください。今日の部直は器楽部です』


 メロディをどうするか話し合ったり、練習したりしていると、数学教師の校内アナウンスがかかる。


「へえ、こんなアナウンスかかるんだ」


「あ、そっか。小沼くん、最終下校までいるの、はじめて?」


 アコギをケースにしまいながら、市川が訊いてくる。


「うん」


「そりゃそうかあ」


「ぶちょく、って?」


「部活日直の略かなあ。学校に残ってる人を追い出す係だよ。毎日持ち回りでやってるの」


「ほーん」


 そういうのもあるんだ。


「そういうあいづちだと、また由莉ゆりに怒られるよ?」


「ああ、そうじゃん……」


 そんな話をしながら片付けをしていると、スタジオのドアが開く。


「部直でーす、帰ってくださーい……って、天音と小沼じゃん!」


 うわさをすればなんとやら。ベースを背負った吾妻あずまがそこに立っていた。


「あ、由莉、今日部直なんだ! 確かに先生、部直は器楽部って言ってたもんね」


「そうなんだよね、あたしもまだ練習し足りないんだけどさ……。まあいいや、出て出てー」


「「はーい」」


 そう言いながら3人でスタジオを出る。


「ねえねえ、由莉、一緒に帰らない? 器楽部みんなで帰るとかある?」


「おっ! 一緒帰りたい! 器楽のみんなバス派だからいつも一人なんだよねえ。部直終わるまで、校舎出たとこで待っててもらってもいい?」


「もちろん!」


 ああ、なんか、めちゃくちゃ普通の会話だな......。




 校舎の外で吾妻を待ち、新小金井しんこがねい駅への道を歩いた。


「あ、じゃあ、小沼は今日が部活デビューなんだ」


「そうなるな」


 部直を知らなかった、みたいな話をしたら、吾妻がそんなことを言ってきた。


「なんかさ、初めて小沼と話した一週間前とは別人って感じだよね。この一週間で小沼の人生も全然変わったんじゃない? いや、これまでの人生のこと全然知らないんだけどさ」


「そうなあ……」


 たしかに、この一週間、色々なことがあったな……。

 市川に作曲がバレて、吾妻と知り合って、沙子と仲直り(?)して……。


「一週間前には話してなかった、クラス1の美少女の英里奈ちゃんともなんか仲良くなってたもんねー? ね、小沼くん?」


 意地悪な笑顔を浮かべて市川がこちらを覗き込んでくる。


「いや、あれは……」


 仲良くってか、どこまでいっても仲良いフリ、なんだけどな。


 あとクラス1の美少女っていうところには異論がある。誰とは言わんが。


「まあまあ、小沼のリア充化、めでたいじゃん!」


 英里奈さんの意図を知っているからだろう。


 珍しく吾妻がおれの味方をしてとりなしてくれる。


「ていうか」


 おれは、吾妻の発言で気になったところに反応する。


「リア充なんかじゃねえだろ、おれ、ウェーイとか言ってないし......」


「ははっ、何そのリア充のイメージ」


 吾妻が笑う。


「そもそも、あとからリア充になるとかって、ないだろ。リア充って、なれるやつとなれないやつが明確に分かれてるっていうか、決まったカーストは超えられないっていうか」


 それは、おれがいつも思っていることだった。


「見えるんだよな、『こっち』側からだと。向こうからは話しかけていいけどこっちからは話しかけちゃいけないとか、教室でどれくらい大きな声を出して良いかとか、廊下の真ん中を歩いていいか端っこを歩かないといけないとか……そういうの、全部決まってるような感じがする」


 無意識に不満に思っているのだろうか。


 おれは少し自嘲じちょう気味につらつらとそんなことを語っていた。


「ふーん……? カーストとか、そんなの、あるかな?」


 市川が首を傾げている。


 まあ、分からんだろうな。


「あるんだよ。だから、こんな風に一緒に帰ってても、おれと一緒にいるところなんか見つかったら、二人の印象悪くなるんじゃないかって内心びびってる」


「いや、気にしすぎじゃない? 小沼くんがいつもなんか怖いのって、それが原因……?」


 なんだか、市川にひかれてしまっている。


「あるんだよ。まあ、カーストがずっと高い2人には分からない感覚かもしれないけど」


 何気なく発した一言に、


「……あたしは、ずっとリア充に見える?」


 吾妻が一転、くぐもった声でこたえた。


「由莉?」


 市川が心配そうに話しかける。


「ねえ、小沼。あたしは、ずっとリア充に見える?」


 そして、同じことを、もう一度尋ねてくる。


「ああ、見えるけど……?」


 なんか地雷踏んだか……? とビビりながら、おそるおそるそう言うと、


「そう、かあ……」


 と吾妻が大きく息をつきながら自分の頬をムニムニと触る。


「由莉、どうしたの?」


 市川の質問に、吾妻は苦笑いを浮かべながら、


「あたし、小沼の言ってること、分かるよ」


 と言った。


「だって、あたし、中学の頃、ぼっちだったから」


 と。


「え……?」


「……二人にだけ、話すね。私も二人の秘密知ってるから」


 そう言って、吾妻は中学時代の話を始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2021年10月1日、角川スニーカー文庫より
『宅録ぼっちのおれが、あの天才美少女のゴーストライターになるなんて。』が発売中です!

購入はこちら!(amazon)
作中曲『わたしのうた』MV
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ