表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
162/362

第4小節目:What Goes On

小沼おぬまくん、もう大丈夫? 私、下の名前で呼んでないのに……」


「そ、そうなあ……」


 おれは息もえに、市川と共にとりあえずマックにたどり着いた。


 レジに並んでいる最中さいちゅう、市川は「今日は何シェイクにしようかな?」とか言ってる。いや、マックシェイクしかないんだけど……。


 ふむ、それにしても、だ。


 こういう場合はやっぱりおれが市川の分も出した方がいいのだろうか。


 うん、その方がなんというか……付き合ってるっぽい。気がする。


 なんて思って、レジでオーダーをした市川(なぜかおれの頼もうとしたコーヒーも一緒に頼んでくれている)の横から、200円ちょっとを出そうとすると。


「私、自分の分は自分で出すよ?」


 と制されてしまう。


「いや、でも……」


 言いよどむおれをまっすぐに見上げて、彼女は言うのだった。




「それよりも、その分2倍、一緒にマックに来よ?」



 

「お、おう……!」


 たじろくおれたちのトレイの上には、砂糖の長細い包みが10本くらい乱雑に置き放たれていた。なんすか……?




 お会計を済ませて二階に上がり、窓際の席へと自然と足を向けると。


「「あっ……」」


 そこには、ピンクベージュのふわふわツインテール、みんなのアイドル(だけどミスコンは4位)の小悪魔さんが一人で座っていた。


 おれたちの声に気づいたらしく、じろっとこちらを振り返ると、


「うわぁぁぁぁぁぁんたくとくぅぅぅぅぅん!」


 涙目なみだめで、すがりつくようにこちらにやってきた。





「それで、どうした?」

 

 市川が英里奈さんをなだめたあと、2人して英里奈えりなさんの正面に座ってみると、


「たくとくんがえりなのこと構ってくれないから一人でマック来てたぁ……」


「あ、いや、今何をしてたっていうよりは何があったのかってことなんだけど……」


 今まったく燃えてない火種ひだねを作るようなことするのやめてくれない?


 おれの心配などどこ吹く風で、本当に泣いてはいないくせに、スンとあざとく鼻を鳴らしてから、話し始めた。


「えりなさぁ、学園祭のロックオンで、チェリーボーイズのゲストボーカルで出たじゃぁん?」


「そうなあ……」


「あれ、すっごく可愛くてよかったよ!」


「あぁ、うん、ありがとぉ……」


 チェリーボーイズのライブに突然サプライズゲスト的に出て来てYUIの『CHE.R.RY(チェリー)』を歌ったのだ。その小悪魔なアイドル性にみんな釘付けであった。


 そして、そこで英里奈さんは、かねてからの想い人であるところのはざま健次けんじにその曲の歌詞になぞらえて『多分、気づいているでしょ?』と、告白同然のことをしていた。


「あれから、なんか、健次の様子がおかしいんだよぉ……」


「どんな風に?」


「なぁんか、話しかけようとすると、爽やかに苦笑いしながらどっか行っちゃったりぃ……。えりなの気持ち、わからなかったのかなぁ……?」


 英里奈さんはチョコのマックシェイクをずずずと吸い込む。


「いや、どっちかというと、伝わってるからおかしくなってるんじゃないの?」


「やっぱりそぉかなぁ!? だよねぇ……、じゃぁ、やっぱりダメってことなのかなぁ……。えりなもたしかにちょっと動きが早かったかもなぁ……。うぅー、もぉどっちでもいいから答え欲しいなぁ……」


 ぼやきながら「ふへぇー」と机に突っぷす。


「分かるよ、英里奈ちゃん!」


 すると、おれの隣で同意だドン! とばかりに机を叩いて前のめりになる女子がいた。


「ほへぇ?」


「これだけ分かりやすく言ってるのに分からないわけないよね、ってことだよね!?」


「う、うん……」


「なんでそれをはぐらかすようなことをするのかな、ってことだよね!?」


「そ、そぉです……!」


 んん、なんで市川さんは熱が入っちゃったのかな?


「こっちはすっごく勇気出して言ってるんだから、それ相応そうおうの対応してもらいたいよね!?」


「そぉだよねぇ!?」


 と思っていると、英里奈さんまでスイッチ入ってしまった。


「なんで男の子はそうなんだろうね!? あれ(・・)、どう考えても告白してたよね!? 学園祭まで延ばす意味あった!?」


「だよねぇ!?」


 あれあれ、市川さんの『あれ』は英里奈さんの『あれ』のことですか? はざまは学園祭まで延ばしてないよね? ……色々あったんだよ! 説明したじゃん! ごめんなさい!


「どう思うたくとくん!?」


 勢いづいた英里奈さんがずいっと前のめりにおれに近づいてくる。


「いや、はざまにも色々あるんじゃ……」


「「色々って何!?」」


 ちょっと2人とも、ここ公共の場だから……。




 でも実際、はざまに色々あるのは本当であろう。そりゃもう、市川さんが怒ってる理由のその人よりも真っ当に色々あるに決まっている。


 そもそも、普通に考えたらはざま沙子さこのことをまだ想っているはずなのだ。その前提がある中で、英里奈さんからの告白を受けた。


 3人組で仲が良く、英里奈さんははざまにとっては恋の相談も出来る女友達。彼の交友関係には詳しくないが、はたから見ている感じだと、英里奈さんはその女友達ポジションの中でもきっと一番の仲良しなのだろう。


 その関係性自体を壊したくないという気持ちは少なからずあるはずだ。じゃないと、むしろ英里奈さんが報われない。


 だけど、英里奈さんの告白にぶっちゃけグッと来てしまった自分もいる。


『いやいや、波須はすへの気持ちがそんなことでなくなるって、オレどうなん?』っていう彼なりの矜恃きょうじやら仁義じんぎやらも働き、要するにパニックなのだ。


 ちゃんと断るべきなのか、受け入れるべきなのか。なんなら保留すべきなのかも分からずに、それすら保留しているというのが今の状態であろう。


 ……おれ、いつからこんなに人の心の機微きびが分かるようになったんだ?


 鈍感どんかんであるという『逃げ』を捨ててアップデートされた自分に驚きながらも、たった一つ確かなことがあるとするのならば。


「完全に脈ナシってわけじゃないってことだろ」


「たくとくんのくせになんか分かったようなことってるぅ……。たくとくんが偉そうに語る恋愛の論理何ひとつとしてピンと来ない……」


 それは、つらいけどいなめない……。


「むぅー……万策ばんさくきたよぉ……」


 再度机に突っ伏す英里奈さん。意外と難しい言葉知ってるんだね。


「どうしようかなあ……」


「そうなあ……」


 んんーと腕組みして考えているおれたちのもとに。




「あ」「マジかっ……」




 そこになんと。



「ありゃ、天才的にタイミングが悪いね……」



 沙子とはざまが2人でそれぞれトレイを持って、階段の下から現れた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2021年10月1日、角川スニーカー文庫より
『宅録ぼっちのおれが、あの天才美少女のゴーストライターになるなんて。』が発売中です!

購入はこちら!(amazon)
作中曲『わたしのうた』MV
― 新着の感想 ―
[一言] 恋愛話で盛り上がる市川と英理奈さんという組み合わせもいいですね。息が合っていて微笑ましいです。 拓人的にはこの二人に組まれたら勝ち目なさそう…
[良い点] 英里奈さん今日もかわいいですね 小沼君遠回しにスナイプされてて草 間君の心情がどうなってるか楽しみですね、わざわざさこさん誘ってるからそっちをまず決着つける感じかなと予想
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ