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第11小節目:15歳の詩

* * *

 話は、中学時代にさかのぼる。


 沙子とおれは小学校、中学校が一緒だ。


 小学校の途中まで通っていたピアノ教室も同じで、中学校では同じ吹奏楽部に入っていた。


 当時黒髪だった沙子とおれは、いわゆる幼馴染おさななじみだったのだろう。


 普段無表情で、無口な印象のある沙子は、おれの前ではよく喋る女子だった。


 よく喋ると言っても、あくまで沙子の割には、という程度だが。


 顔が整っている沙子のことだから、そのことをクラスや部活ではやし立てられることもあったが、そんなことは特に気にならなかった。


 今思えば、おれも沙子も周りを気遣うほど、周りに興味がなかったんだと思う。


 二人は音楽の話を沢山した。


 吹奏楽曲からはじまり、クラシック、ジャズ、ブルースなど、様々なジャンルを貪欲(どんよく)に取り込んだ。


 自分の家にあるCDを聴き終えると、おれたちは、お互いの家にあるCDを交換するようになり、それも聴き終えると、二人は一緒に中古のCD屋に行き、なけなしの小遣いでCDを買うようになる。


 名盤と呼ばれるものほど多くプレスされていて、みんな持っているから、中古で買うと安いのだ。ビートルズの『1』なんて、100円で手に入れた。


 そんな風にしてほとんど完全に同じCDを共有しているおれたちの音楽の趣味嗜好しゅみしこうはほとんど完全に合致していた。


 吹奏楽部では、おれはパーカッション、沙子がコントラバスを弾いていた。


 吹奏楽部でポップスをやるときなどは、おれはドラム、沙子はエレキベースを弾く。(これが、沙子がプレべを知っていた理由だろう。)


 演奏時の二人の息はぴったりで、さすが幼馴染の仲良しコンビだなんて言われていた。


 そんな二人の関係に初めておれが不安を覚えたのは、おれたちが中学二年生の夏のことだった。



 おれは、出会ったばかりの最高の音楽に興奮し、


「こんな名曲、出会ったことない! 歌詞から曲まで、完璧すぎるだろ!」


 と息巻いて沙子に押し付けた。


 それが、amaneのCDだった。


 だが、その翌日。


 そのCDを返してくれた時に、


「ごめん、なんかあんま気に入らなかった」


 と、沙子が言ったのだ。


 これまでたった一度もそんなことはなかったのに、だ。


 ただ、そのあともCDの貸し借りは続いていく。


 他のCDについてはこれまでどおりの反応だったので、そういうこともあるか、とショックをごまかしながらもおれは自分を納得させていた。


 決定的に亀裂が入ってしまったのは、そのあと、三年生になり卒業する間近のことだ。


 おれは受験勉強を終えて、合格祝いに与えられたパソコンに入っていた音楽ソフトで初めて宅録の音源を作った。


 今思えばあらゆることが雑な音源だったが、それでも、おれにとっては、何かものすごいことを成し遂げたような気がしていたのだ。


 この音源だけで、メジャーデビューだろうがグラミー賞だろうが、どこまででもいけるような気がした。


 出来かけの音楽をどうしても沙子に聴いてもらいたくて、パソコンごと持って沙子に会いに行き、部室で直接聴かせた時のこと。


 聞き終わった後に、イヤフォンを外して、沙子がぽしょりとつぶやいた。




「ねえ、拓人はどうして曲作ろうと思ったの」




 曲の感想よりも先にきっかけを訊かれたおれは戸惑いながら、


「amaneの曲を聴いて、同い年でもこんな風にめちゃくちゃ良い曲を作ってんだなって思って、それでおれも作ってみたくなって……」


「ふーん……」


 もじもじした後に顔を上げるとそこには。


 今まで見たこともないほど、冷たい目をした沙子がいた。


 沙子は少し下唇を噛んでから、一言一句いちごんいっくたがわず、こう言い放ったのだった。


「ぶっちゃけ、amane? とかいう人のパクりって感じでクソだと思った。てか、キモい」


 * * *

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