Film№8 彼女の部屋とパンドラ・ボックス
彼女の家の中はその外見とは裏腹に、広く廊下が奥まで続いているのが見えた。
俺がもう少し子供だったらはしゃぎ始めるところだが。
俺は冷静に「お邪魔します。」と言って靴を脱ぎ揃えた。
だが、ここに若干一名、まだ子供の奴がいた。
「わー!すっごい広ーい!」
と、フォルティーナは靴を脱ぐなり廊下の奥へと飛んで行った。
(はぁ…まだ靴、脱いでくれるだけマシか…)
仕方なく俺は彼女の靴も揃えて廊下を進み、美來さんの案内に従って2階へ上がった。
「フォルティーナは少々頭のネジが飛んでしまっているんです。家の中で放しちゃっていいんですか?」
「いえいえー、大丈夫ですよ!ウチは好きに使ってください!」
「すいません、本当に。」
そんなことを言っているうちに、2階の廊下の奥にある彼女の部屋に着いた。
「どうぞ!入って入って。」
女の子の、それも同じ高校生の部屋に入るのは初めてで少しどころではない抵抗があった。
(事務所の一室を使っているフォルティーナの部屋には朝、何回も起こしに行くことがあるがそれはノーカン扱いだな。)
彼女の部屋の中はとても広く綺麗で、全体的に白やピンクを基調とした家具ばかりで、ザ・女の子って感じの部屋だった。
「ここに座って〜。」
「あ、はい。」
部屋の中央にあるテーブルを前に俺達は向かい合って座った。
俺達は見つめ合う。
「………。」
すると静寂が一瞬のうちに広がる。
(えっ。何だこの空気は!)
緊張が高まる。
鴉雀無声。
すると彼女はいきなり顔を赤らめる。
「……ぽっ/// 。」
(いや、ぽって言ったよ?何、ぽって。なんで今照れるんだよ!)
彼女の赤い顔を見ているとこっちまで恥ずかしくなってくる。
思えばそうだ。
高校生が二人きりの家でーフォルティーナは前例通りノーカン扱いー部屋の中で向かい合って座る。
これは相当な意味を持つ行動、あるいはそれ相応の関係になってから発生する事態であって、今この場で初対面の人とするような事じゃない。
(まずい。このままだとお互い気まずくなって話をするどころじゃなくなる!)
だが、
「それでぇ!」
と、彼女がいきなりテーブルを叩くものだから俺は「ひぇっ!」と声を出してしまった。
が、気にせず彼女はそのまま本題へ移ろうとする。
「何の用だっけ?」
(は?)
どうやら彼女はこの状況に何一つ感情を動かしてなかったらしい。
俺の無駄な思考回路の展開がバカバカしく思えて涙が出てきた。
だが、泣いてる場合じゃない。
先に話を進めなくては。
「あー。えーと、先程から話していて色々気になるところがあるのですが…。」
「うん!なんでも聞いて!」
俺はその言葉に甘んじて洗いざらい聞いていこうと思った。
だが、いきなり話の真髄に入るのは些か失礼すぎると思い、軽めの質問から攻めていくことにした。
「そういえば、弟さんは今どこに?」
「ん?あー。過は今学校に行ったよ。」
只今時刻は朝の7時半。
「早いんですね。」
「そうね、今日は日直の仕事があるみたい。」
「そうなんですか…御両親は?」
「今、二人とも昨日からの出張で明日まで帰ってこないよ。」
少しドキッとした。
「あ、そ、そうなんですねー。」
そして、また静寂が一瞬のうちに広がる。
それではこの家には、明日まで二人きりなのかと思うとまた余計に緊張してソワソワし始めた。(何度も言うが、フォルティーナはノーカン扱い。)
「あ!そうだ!」
と、彼女はまたいきなりテーブルを叩く。
俺はまた「ひぇっ!」と思わず声を上げた。
「何か飲み物取ってくるね!」
「あー、はい。ありがとうございます。」
そう言って彼女は1階に駆け下りて行った。
「あっぶねぇー。」
俺の緊張はもう限界に達していた。
とりあえず彼女がいなくなったので一息つく。
ぐーっと伸びをする。
そして立ち上がった俺は部屋を見渡す。
よく見ると、棚の上には沢山の賞状やトロフィーが並べ揃えてあった。
後ろを振り返り、ベットを見る。
するとその上には可愛らしいクマの人形が数匹並べられていることに気づいた。
「結構子供っぽくて、可愛らしいな。」
そんなことをボソッと声に漏らした。
「何が可愛らしいの?」
後ろからいきなり声をかけられた。
思わず「ひぇっ!」と声を出して振り向くと、部屋の扉から覗いていたのはフォルティーナだった。
「なんだよ……お前か。ビビらせんなよ。」
「なんだよって何よ!そんなことより!何が可愛らしいの?ねぇっ!」
と、俺の襟元に掴みかかったと思ったら、そのまま左右に振られる。
「なぁ〜にぃ〜がぁ〜かわいい〜のよ〜?」
「クマだよ!ベットの上にあるクマ!」
そう言って彼女を宥める。
何がそんなに気に食わなかったのか。
やっとのことで彼女の手を振りほどくと、その手には何やら箱らしきものを掴んでいたことに気づく。
「何これ。お前、どこから勝手に持ち出してきたんだよ!」
「えぇ〜。いーじゃん、別に。なんか面白そうだからカイトにも見せてあげたかったの!」
見ると、その箱は綺麗な正方形で、繊細な木のタイルが複雑に絡み合ってひとつの美しい幾何学模様が出来ていた。
「いいから、戻してこい!」
見るからに高そうな手のひらサイズの箱。
手放す気がない彼女からその箱を無理やり没収すると、ジュースを運んできた美來さんが戻ってきた。
「あ、それ!」
「あー。ごめんなさい!こいつが勝手に持ってきちゃって。」
慌ててフォルティーナを抑えて箱を彼女に返そうとする。
「それだよ!ちょうど見せたかったんだぁ〜。」
「……?!」
彼女は箱を取って言った。
「『パンドラの箱』。今回の事の発端だよ。」