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Lost Film  作者: ぬペペ
17/17

Film№17 短冊の願いとプロス・パーティ



「美來さん…じゃないですか!」


「えっ。…ん?なんのこと?」


「またまたー、今更とぼけたつもりで俺をからかっても無駄ですよ!」


「…?」


彼女はあからさまに困った表情できょとんとしている。


「いやー、まさか美來さんが生きてたなんて、やっぱり人殺しなんてあるわけないですもんね!」


安心しましたよと続けて言う。

何故、彼女がそこまできょとんと惚けているのか分からないが。

というか、さっき俺は興奮して何も聞いてなかったが、彼女は自己紹介で自分の名前をなんて言った?


「あれっ?さっきの…あなたの名前を…聞いてもいいですか?」


「あ、はい。私の名前は…日瑠星(ひるせ)(ゆずる)、と申します。」


彼女はこちらに気を使って躊躇いながら言ってくれた。


(ゆずる)?」


何故下の名前だけ違うのか。


美來(みくる)ではなく、(ゆずる)


「あの、実はですね…」


彼女は俺の心情を察しようとして、優しく事情を説明してくれた。


「私、病院出たばかりで何もわからないんですけど…その…病院に入る前の私が何をしていたのかを知らないというか…あの…」


モジモジチラチラとこちらを伺いながら、決定的な言葉を避けている気がした。


「気にしなくていいわよ。彼ならきっとどんな事情でも受け入れてくれるわ。そうでしょ?カイトくん。」


ヘスティアさんが彼女に寄り添うように、彼女に語りかけ、俺の方に向かってニコッと微笑む。

その笑顔が地味に怖い。


「…えぇ、まぁ。大袈裟ですけど、そのつもりです。」


俺にとって何か大きな脅威が訪れそうな気がした。


「では、単刀直入に言います。」


「はい。」


ゴクっと息を呑む。


「私は…記憶喪失なんです!」


「…!?」


「本当に何も覚えてなくて…自分の家族や住所すら覚えていないのです。この日瑠星譲という名前も覚えていなかったんですけど、持ち物にあった定期券に書いてあったので一応拝借したというか…」


「…いや、あなたは日瑠星美來さんで、過の姉で、今まで失踪してたんですよ!」


正しくはパンドラの特異能力略奪(スペック・パランダ)によってこの世界から殺されていたわけだが。


「えー!やっぱり?なんか明らかに過くんと顔付きが似てるなぁって思ってたんだけど…まさか兄弟だったなんてね!」


そう言えばヘスティアさんはまだ美來さんどころか、それに似たパンドラさえ見たことがないのだった。


「てか、記憶喪失って。何があったか聞いていないんですか?ヘスティアさん。病院は、医者の方はなんて言ってるんですか?」


「んー。それがねー、いきなり倒れたという通報がちょうど2週間ぐらい前にあってね、搬送されてきたんだけど。外傷はさほど酷くなくて直ぐに退院出来たとしか…」


「2週間前ってことは6月…21日…って美來さんが失踪した日じゃないですか!やっぱり美來さんですよ!この人。」


かくして記憶喪失の少女、「日瑠星美來」がうちの事務所に正式雇用人として配属されることになった。

過は姉が記憶喪失という事実に少し戸惑っていたが、美來さんも彼に気を遣ってくれているおかげで、今まで通り兄弟仲良く過ごすことが出来そうだ。

そんな中で久しぶりの女性新メンバーに喜んでいるのはフォルティーナだった。

まぁ、記憶喪失の雇用人が入ったという点はフォルティーナが言ってた通り、仲間が増えたということになるのか。


今日は7月7日。

刻ノ神(クロノスタ)探偵事務所毎年恒例の七夕パーティを開いた。

いつもより激しい賑わいの中で一人、とんだ七夕イベントだったな、と徐に感じていた。


翌日からは気分改め、新メンバー2人と共に仕事を再開することに。

いきなりの正式雇用で不安もあったが、彼女はとても優秀で、働き者だった。

どっかで似たシチュエーションで刻ノ神にやってきた奴がいたが…


「あーあ…やっぱ働き者だなぁ、美來さんは。どっかの誰かさんとは大違いだ!」


「え!なによ!私が働いてないとでも言いたいのか!」


わざわざ声を大にして放ったその一言は、予想通り、彼女の耳へと突き刺さった。


「ふっふっふ〜。だがしかし私が働いてない証拠があるのかね?カイトくん。」


そう言えば最近、フォルティーナは事務所に、たくさんの客が来ますようにと玄関前に何かの花の種を植えて育てているのを見かけたが…

(客が増えるということは、被害者が増えるということになるから、なるべくなら増えない方がいいのだが…)


「あー、あの花か。お前、植えたからにはちゃんと育ててるんだろうな!」


「もちのろん!毎日たっぷり愛情を注いでいるわ!」


その時、買い出しに出ていた過が帰ってきた。


「アイス、買ってきましたよー、フォルティーナさん。そう言えば玄関前にこの枯れた花が落ちてたんですけど…またなんかのイタズラですかねぇ。」


と、彼の手には見るも無残な灰色の花が握られていた。


「フォルティーナ…可哀想だろ、こんなことして。」


「えー!なんでもう枯れちゃってるの!ちゃんとお水もあげてたのに…」


「お前、他になんかやったんじゃないのか?」


「お花の本に『ストレスは与えるな』って書いてあったから鉢から出して自由にしてあげてたんだけどなぁ…」


「それじゃねぇか!鼻を育てるのに鉢から出すバカがいるかよ!」


「バカとは何よ!」


「まぁまぁ、フォルティーナちゃんだって頑張ってますし、私たちお互い記憶喪失なんでまだまだよく分からないことだってありますよ。あんまり責めないであげてくださいねー。」


一連の会話を聞いていた美來さんが仲介に入る。


「いやー、でもそれとこれとは別なんじゃ…」


まぁ、美來さんがそう言うなら仕方ない。


「玄関の花、片づけるまでこのアイスはお預けだな!」


「えー!」











だが、俺達はまだ知らなかった。


後にこのタバコの残り香のようにほのかに漂う謎があんな凄惨な事態を引き起こすなんて…


知るよしもなかった。





プロメテウス兄弟とパンドラの箱編 fin.



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