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Lost Film  作者: ぬペペ
15/17

Film№15 悪夢の終わりとエスシーシャ・フォアサイト



ー6月24日日曜日(二回目)ー


「…今は何時だ?」


焦りを抑えられない。

扉をくぐると強い光に包まれる。

その光が穏やかになり、目が慣れてくる前に俺は、腕時計で時刻を確認する。


「午後5時か…」


すると耳元で声がした。


「どうしたの?」


見ると、隣にはフォルティーナがいた。

そしてその奥には、オレンジ色に染ったシーサイドビューが広がっていた。


「俺達は今、美來さんの家から帰ってきてる途中だったのか。」


「え!何言ってるの?当たり前でしょ!まさか…認知症!?」


「なわけあるか!」


こいつはいつの時間も相変わらず頭がぶっ飛んでる。

だが、そこに安心してしまう自分もいる。


(前に時間軸転移(タイム・リーピング)を使ってからあまり時間は経っていなかったが、数時間だけなら辛うじて戻せたな。)


「…まぁ、そんなことはいい。とりあえず戻るぞ。」


「えっ。戻るってあの家に?まだ何かあるの?」


時間は戻せたものの、せっかく獲得したフォルティーナの状況理解を全て失くすことになるのは痛い。

彼女に事情を説明するのは毎回骨が折れるからだ。


「いちいち説明してる場合はない。」


そう言って俺は彼女の手を引いて美來さんの家へ飛んだ。

俺達が一度事務所へと戻ってから彼女の家に向かった際は、寸でのところで間に合わなかった。

だが、今から向かえば…


「今なら、まだ…間に合う!」


<hr>


美來さんの家に再度訪れた俺らはチャイムは鳴らさず、そのまま中へ…


「あれっ?鍵が空いてる。」


こじ開けようとした扉は以外にもすんなりと開いた。

そして、俺らは中へ入ると、リビングに2人が座っていた。

過とパンドラ。

2人はテーブルに向かい合うようにして黙って座っている。

夕日が差し込むその部屋には異様な空気が漂っていた。

だが、俺はその空気を断ち切り、声を張る。


「おい!パンドラ!」


彼女は最初から喧嘩腰に飛び出した俺を一目見て、深く息を吐きながらこう言った。


「…ええ。分かってるわ。」


「…!?」


「降参よ…私の負け。」


彼女はリビングの椅子に座ったまま、動こうとしない。

そのテーブルの向かいで過が俯いて座っている。


「…どういうことだ。」


「全てはオリジナルの手の中だったのよ…最初から。」


「…!?」


「私は確かにオリジナルである日瑠星美來を殺したわ。彼女の能力を奪うことが、今回の任務だったの。」


オリジナル?

任務?

急すぎてよくわからない。

彼女は一体、何が言いたいんだ?

状況が全く掴めない。


だが、一つだけ、確かな思いがあった。


「さっきは過を殺してヘラヘラ笑っていたくせに…」


彼女が何一つ動揺を見せずに語る姿を見て、俺は居ても立ってもいられなくなった。


第三者恩恵供与(クロース・ド・グラント)か…そんなものは人を一人殺してまで手に入れる価値なんてないだろ…ふざけるな!」


俺は抱いていた思いをぶつける。

人を一人殺しておいて、どうしてそんなに冷静にいられるのか。

つくづく冷淡なやつだ。

過もさっきから一向に口を開かないで沈黙を押し通している。


「聞いて…あなたが怒るのも無理はないわ。でも、最後まで聞いて。これが彼女の、あのオリジナルの最後の仕事よ。」


「…どういうことだ。」


前の時間軸の彼女からは似ても似つかない態度に驚く。


「オリジナルが死んだことで私の計画は既に失敗だったのよ。彼女は私が殺しにくることを前もって知っていたわ。それが彼女の、誰も知らなかった2つ目の能力、超感覚的予知(エスシーシャ・フォアサイト)よ。」


「…!?」


予知だと?

つまり、未来が見えるということか。

しかも能力を2つ持っていたなんて、そんな馬鹿なことがあるか。


「…じゃあ、美來さんは自分が死ぬことをわかっていたということか。それなら、逃げられたはずじゃないか。自分の命をなんだと思っているんだ、あの人は!」


「あなたはまだ、何も分かっていない。私が彼女の略奪に失敗すれば、私は次の能力者の元へ向かうつもりだったわ。それを知っていたからオリジナルは自らの命を投げ打ってでも私をここで止めようとしたの。」


(過のことか。)


「でも、どうやって…?」


「彼女の1つ目の能力は、他人が必要としているものを与えることが出来るんだったわよね?なのに何故過くんは能力を享受したのか、わかる?」


「それは…彼がその能力を望んでいたからに決まってるだろ。」


「確かに、そうね。でも、彼が望んでいたわけじゃない。未来の彼がそれを望んでいたのよ。」


「未来の…過?」


「そう、彼女は自分が死んだ後で彼がそれを望んでいる姿を見たのよ。私が彼女に成り代わっているのを、彼のあの一言であなたに暴かせるためにね。」


「じゃあ、何故自分は失踪したと自らを犠牲にしてまで嘘をついたんだ?」


「そうでないと、私をここまで陥れることは出来なかったわ。あなたが来て、この事件をここまで導くために彼女は最後まで嘘をついたのよ。」


「…俺は…何もしていない。」


拙い過去が蘇る。


「俺はあの時…何もできなかった。何も…守れなかった。」


「いいえ、あなたはここに来るだけでその意味があるのよ。」


「…どういうことだ。」


「私はオリジナルから超感覚的予知(エスシーシャ・フォアサイト)も奪い、人の未来が見えるようになったの。でも、あなたの未来だけは、私には見えなかったのよ。」


「それはつまり、過の能力と同様に、俺が時間軸を移動したあとの未来は見えないということか。」


「ご明察。あなたの存在が私をここまで追い込んだのよ。予測不能なあなたの動きには私もさすがに降参だったわ。」


(俺がこの時間軸に来るまで彼女には俺の未来が見えなかったということか。)


「そしてこの結末は彼女が死ぬまで作り上げてきた、たった一つの未来なのよ。今更どうこうできないものだったの。」


「彼女はその結末を知った上で何もかも犠牲にして、お前を止めようとしたのか。」


「私を見て、よっぽどひどい未来を見たんでしょうね。きっとたくさんの悲しむ人が出ていたんじゃない?」


「何、他人事みたいに言っているだ。彼女が命を賭けてまでお前を止めたのに…」


「私はもう終わりなのよ。結局、オリジナルに勝てなかった。所詮は他人の能力を受けても下位互換にしかならないのよ、私は。」


「美來さんが、そんなことを考えていたなんて…」


今思えば、彼女の行動一つ一つが今回の事件の解決に繋がっていたと切に感じる。


「彼女はもう…戻ってこないのか…」


「ええ。」


彼女を信じてやっていれば、こんなことにならなくて済んだのかもしれない。


「…お前は、それでどうするつもりだよ。」


「どうするって?」


思えば俺は今、人々の存在をこの世から消してきた、あの憎き「エクストラ・フィルム」の正体をようやく掴んできたところだった。


「さっきから事の真相を全て俺に伝えて、更生したような口ぶりだな。いなくなってしまった者は仕方がない。どうしたって戻らないのは分かっている。だが、お前が今まで犯してきた罪には、それ相応の対応をしないとな。」


「私が犯してきた罪?何を言っているの?」


「は?それはこっちのセリフだ。この期に及んでとぼけるつもりか?お前は今まで、どれだけの人を苦しめてきたと思っているんだ!今さらシラを切っても無駄だ。」


「だから、私は何もしてないわ。今回のターゲットが初任務よ。」


「…!?」


初任務だと?

それじゃあ今まで一体誰がやっていたんだ?


「つまり、他にも『エクストラ・フィルム』を回している連中がいるって言いたいのか。」


「ええ。そうよ。私は組織に入ったばかりで必要最低限の情報しか与えられてないけど。」


「組織…だと!?」


(エクストラ・フィルム」は組織ぐるみで行われていたのか。人々をさんざん傷つけて、一体、なんのために…)


「そいつらは今どこにいるんだ!目的はなんだ!そいつらは…」


いきなり核心に迫る俺の質問を遮って彼女はこう言った。


「はい!そろそろ、時間だから…ひとつだけ忠告しておくわ。『いくら時を戻せてもあなたじゃ、運命には勝てない。』それじゃあね。」


彼女は目を瞑る。


「何言ってんだよ。まだ話は終わってないだろ!」


俺は、なぜか話を中途半端に終わらそうとする彼女に手を伸ばし近寄ろうとする。


その途端、淡いオレンジ色の光が差し込んでいたリビングの窓から一本の青い光が舞い込む。

その発光は強まり、一瞬にして目の前に広がる。


「くっ!なんだ!?」


凄まじい光に耐えかねた俺は目を塞ぐ。

その時、馬鹿でかい破裂音がした。

光が収まり、目を開けた俺は、目の前の凄惨な光景に愕然とした。

淡いオレンジ色の空をバックに赤く染った彼女の姿。

口から血を吐き、体にはポッカリと大きな穴が空いていた。


「おい…どうしたんだよ!」


反応がない。

息をしていない。

急いで光が飛んできた窓の外へ向かうと、道路の反対側にある3つ隣のビルの屋上に人影が見えた。

全身黒づくめの小柄な影の手には光る弓のようなものがあった。


「へ…パイスト…ス…」


「えっ。」


後ろで彼女が何かを囁く。

一瞬彼女に向けてしまった目をビルに戻すと、そこには既に人影はいなくなっていた。






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