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Lost Film  作者: ぬペペ
14/17

Film№14 不気味な意図とアン・ハッピーエンド



「どうも、引っかかるんだよな…」


「まぁだ、何かあるの?めちゃくちゃハッピーエンドでいいじゃん!」


美來さんは確かに、今まで怯えていた。

自分を追っている『誰か』に。

そして、パンドラの箱に。


「パンドラの箱…略奪の神…か。過はあの帰り際、なんて言っていたんだ?箱の…人?か?」



……!?


俺の中で何かがつながり始める。

不気味な糸で、くくわれはじめる。


「彼女は与える仕事が、第三者恩恵供与(クロース・ド・グラント)を使ったことが世界のルールを破ったと言っていたよな?それが原因であるものに目を付けられたとも言っていた。そんな彼女が何故、この三日の間に能力を使う仕事に戻れたのか…行動が奇異荒唐すぎる。フォルティーナ、もう一度戻ろう。」


「えっ。ええ!なに、またあの家に行くの?もう、疲れたよ…」


「まだ一往復だろ、さあ、行こう。」



<hr>


俺達は電車に乗っていた。

彼女の家がある数駅先までの間に、俺の中にあるこのモヤモヤを解決しておきたい。


「どうも、引っかかるんだ。」


「何が?」


「過は俺達の帰り際に、姉の目を見て確かに『箱の人』と言ったんだ。彼はその人の目を見るだけでその人の過去を把握出来る。だけど美來さんの目を見て、そんなことを言うのはおかしいんだ。彼女は、過に箱を与えた人物を直接見てない。直接経験してない過去は第三者経験掌握(パスト・グラスプ)では見ることは出来ない。」


「つまり…?」


「つまり彼女は…美來さんじゃない。ニセモノだ。」


「え!じゃあ、本物の美來さんは?あのお姉さんにそっくりな人は一体誰なの?」


「多分、美來さんはまだ『ロスト・フィルム』の中だ。そして、あれこそがパンドラの箱だったんだよ。美來さんはいつしかそれを略奪の神と言っていた。これはきっと能力について言っていたんだと思う。彼女を追っていたのは人間だ。そして能力者を追うことが出来る人間はきっと同じ、その存在を知る能力者しかいない。つまり美來さんは、略奪の能力者によって何もかも奪われたんだ。周りの人間の記憶さえもな。そしてそいつが美來さんに成り代わった。」


「じゃあ『エクストラ・フィルム』を起していたのって能力者だったの!?」


「…多分そういう事になるな。」


(随分理解が早くなったじゃないか。)


「じゃあ、(あやまち)くんも危ないんじゃない?」


「だから今向かっているんだ。」


<hr>


「過!いるかー!いたら返事してくれ!」


彼女の家は静まり返っていた。

何度チャイムを鳴らしても返事がない。


「まずいな。」


「ええい!強行突破だよ!」


「お、おい!」


フォルティーナは彼女の家の扉を右脚で思いっきり蹴飛ばした。


「うそだろ…」


唖然。

彼女の一蹴りでドアは全壊した。


「…まぁ、今は緊急事態だ。あとで弁償ならいくらでもしよう。いくぞ!」


俺たちは靴も脱がず真っ直ぐ廊下を走り、階段を駆け上がった。

そして、彼女の部屋がある廊下の奥に走った。


「過!」


彼女の部屋の扉は開いていた。

見るとその奥にはぐったりとした過を抱きかかえたパンドラが立っていた。


「おい!過から手を離せ!」


「あら、もしかしてバレちゃってる?」


「お前は美來さんじゃない!何者なんだ!一体何が目的でこんなことやってるんだ!」


「彼には用なんてなかったわ。でも、彼は私が本物ではないと気づいてしまった。だから仕方ないのよ。あなたもそうでしょう?」


「…彼をどうするつもりだ。」


「この子の全てをいただくわ。姉のついでにね。」


そう言って彼女は過の唇を奪う。

過は目を大きく開き、息を荒らげる。

彼の瞳孔が徐々に開いていく。


「やめろ!」


俺は彼女に突進をしかけた。

だが、彼女は過を突き放し、俺のタックルを華麗に避ける。

彼女は俺に背を向けた。


「うぉぉぉぉっ!」


チャンスだと思い、俺は後ろから殴り掛かる。

だが、彼女は何も見えていないのにも関わらず俺の攻撃を次から次に避けていく。


「ふふふ。もうあなたの未来は見えてるわ。何をしても、あなたは私にかすり傷人さえ与えることは出来ないわ。」


(あやまち)くん!」


フォルティーナが床に転がった過に向かって倒れ込む。


「しっかりして!どーしたの!」


返事がない。


「あなた!彼に一体何をしたの!何が目的なの!」


「うふふ、どうせ死ぬやつになんでそんなこと教えなくちゃならないのよ。」


「…!?」


「どうせ…死ぬ…だと?」


「ええ、そうよ。あなたはこの後、ベランダから逃げた私を追いかけて玄関の扉を開くのよ。」


「…!?」


(どういうことだ?)


「何故そんなことが言えるんだ!」


「あ、でも、玄関を出たあと、あなたはそのお隣にいる子の首を絞めてるわね。あら!殺しちゃったわ。ふふふ。気が狂ったのかしら?」


「俺がフォルティーナを殺すだと?さっきから何を言っているんだ!」


「言ったでしょ?今の私には未来が見えるのよ。目を合わせたあなたの少し先をね。」


「じゃあ、彼には一体、何をしたってんだ。」


「奪ったのよ…何もかもね。」


「…それはつまり…彼の命もか!」


「そうよ。それが私の能力だもの。」


「てめぇ…クソ野郎っ!」


俺は怒りに任せて我武者羅に殴りかかる。

だが、彼女は全てを避けきり、いつの間にか彼女はベランダの手すりに立っていた。


「それじゃあね!もうここに用はないわ。」


「おい!待て!」


そう言って彼女は、ベランダから飛び降り、どこかへ去っていった。


「クソ!」


俺はベランダの手すりに駆け寄り、下を覗いた。

だが、彼女の姿はなかった。


既に日は沈みかけている。

俺は急いで、玄関へと戻った。


「戻るの?」


「あぁ、今ならまだ間に合うかもしれない。一か八かだ。」


「彼を…助けてあげて…」


「…あぁ、分かってる…けど…」


俺は扉に手をかけて少し迷った。

ここまでの流れは彼女がさっき言っていた通りになった。

もし彼女の言う通りなら、俺はこれからこの扉をくぐり、フォルティーナを殺すということになる。


「…私のことは心配しなくていいわ。」


俺の心配を察知した彼女は、そう言って俺の背中を押す。


「あぁ、分かってる。俺はお前を殺したりなんかしない…行ってくる。」


そう言って俺は目を閉じ、玄関の扉を押し開けた。



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