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Lost Film  作者: ぬペペ
12/17

Film№12 蘇る悲劇とギルティ・コンシエンス



ー6月21日木曜日(二回目)ー



「姉が…失踪…しました。」


粗く息を上げて事務所に駆け込んできた彼は、汗だくで、息を吸うのも惜しいほどに、焦っていた。


「…美來さんが…失踪?!」


(なんだと…?)


「…パンドラの箱は?」


「…え。なんですか?そんなの知りません…でも…姉は…こんな手紙を残していったんです!」


びしょ濡れの手で渡されたその紙には、俺が時間軸転移(タイム・リーピング)する前と同じ内容が書かれていた。


そこで俺はあっと声を上げた。

彼女は自ら失踪したのではないのだったと今頃になって後悔する。


「ここは…『エクストラ・フィルム』か!」


人々の記憶の中から特定の個人に関しての記憶だけを取り除く現象。

そうしてその個人が事実上存在しなくなったセカイのことを「エクストラ・フィルム」と呼ぶ。

だが逆に、消えてしまった記憶とそれが存在していた世界のことを「ロスト・フィルム」と呼んでいる。


でも、何故だ。

何故それを忘れていたのだ。

元々、彼がここに以来に来たのは、周りの人からあるべき美來さんの記憶が無いことが原因だったはずだ。

つまり、彼女は「エクストラ・フィルム」に呑まれたという事だ。

なのに、いつしか俺は、彼女の不可思議な人柄に甘えていた。

きっと彼女の勘違いだろうと、全てを受け止めてやれなかった。


「すまない…」


「えっ。何故あなたが謝るのですか?」


「俺は…彼女が『エクストラ・フィルム』という現象に呑まれることを知っていたよ…」


「えっ。」


俺は俯いていた。

顔なんか合わせられないほどの自責の念でいっぱいだった。

だが、彼は俺の顔をのぞき込むようにして俺の目を見つめてくる。

そして何かを察したように一言。


「いえ…そんなことはありませんよ。あなたは今まで、最善を尽くされてきたと思います。」


(第三者経験掌握(パスト・グラスプ)か…)


だが、きっと彼には分からないだろう。

俺がこの時間軸に来る前のことなんて、彼の能力でも計り知れないことは知っている。


ヘスティアさんは手にお盆を持ったまま、彼の駆け込みから始まった一連の流れを確認してから一言。


「んー。何が何だかわからないけど、カイトくん、今回の事件のこと、私たちにも最初から聞かせてちょうだい。」


<hr>


「…そうなのね。でも、なんで彼女なんでしょうね。」


「きっと、姉が能力を持っていたからだと思います。」


過は俺の能力と俺が体験した前の時間軸のことを把握した上で、俺の失態を受け入れた上で、冷静に話を前に進める。


「姉は自分が能力を持っていることに、高校に入った時に初めて気がついたんです。そして、それが特定の個人が必要としているものを与える能力、第三者恩恵供与(クロース・ド・グラント)であると知りました。」


「ああ。それは聞いた。」


「姉は高齢者施設などを回り、ボランティアとしてたくさんの人に笑顔を与えてきました。でも、それが時には、世界のルールさえも破る力を持つことに、姉は常に戸惑っていました。」


だが、問題はここからだ。

この世界から排除されてしまった彼女をどうやって元に戻すか。

俺の時間軸転移(タイム・リーピング)は使ったばかりで、クールタイムが必要だ。

今は、ほんの数時間程度も戻せなくなっている。


「こんなの、初めてだな…」


「そうねぇ、時間軸転移(タイム・リーピング)を使って解決できなかった事件なんて今まで一度もなかったわね。何せ時を巻き戻すのだから…」


「すいません。」


「いやいや、逆に私達が知らないところでたくさんの事件を解決してくれたんじゃない?でも、ちゃんとレポート書いてくれないと…こちらも報酬の手続きがただでさえ面倒なんだからね。」


「金はいりません。みんなが幸せでいてくれるなら、俺はそれでいいんです。」


「またまたぁ。良くないわよ、私は!」


この人はやっぱり金にしか目がない。


「ところで、フォルティーナは?」


「まだ奥で寝てるわ。悪いけどまた、起こしてきてくれない?」


「はい…」


俺がフォルティーナの目覚ましに行っている間、ヘスティアさんは過の接待をしてくれていた。


「おい、またそんなだらしないカッコで寝てたのか…」


「ん〜…もぅ…なにぃ?」


彼女はだらしなく腹を出して、掛け布団をどこかに蹴飛ばして、片付く見込みのないような部屋の真ん中でぐたっと寝ていた。


「依頼人、来てるんだ。」


彼女の部屋のカーテンを開けながら、俺はずっと慙愧の念に苛まれていた。


「でも、今回は失敗した…どうすればいいと思う?」


何かに救いを求めるようにそう言った。

いや、何かじゃない。

俺は返ってくるはずのない答えを他でもない彼女に求めていたのだった。


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